17 / 57
十七話 ん?
しおりを挟む◆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◆
俺はアリアの住んでいる屋敷に入ると、いろいろあったがアリアの自室に通された。
部屋に入ってすぐに【ハーネットの指輪】を通してアリアに向かって言葉を投げかけた。
『……えっと、大丈夫か? 体調が悪そうだ』
『アリア様、体調が優れぬようでしたら……もうお休みなられますか?』
アリアの疲れた様子に俺とリナリーは不安になって声をかけた。
対してアリアは胸に手を当てて大きく息を吐いた。
『すみません、私……ドッと疲れが出てしまったのかもしれません』
『おう、温かくして寝るんだぞ?』
『そうですね。明日は魔法学園もお休みです。ゆっくりしてください』
ベッドに横になったアリアに、俺はちゃんと休むように勧める。
そして、リナリーも俺の意見を肯定するように頷くとアリアの体に毛布を掛けた。
『ありがとう、ノヴァ、リナリー』
力なく笑ったアリアを見て、カーペットの上に座っていた俺はその場から離れようと立ち上がる。
その時、あることを思い出し意思疎通のできる【ハーネットの指輪】の効果が切れる前にリナリーに視線を向けて問いかける。
『あ。リナリー、俺も休みたいから適当に倉庫とかでもいいから空き部屋ないかな?』
『……はい。案内します』
リナリーは一瞬思考を巡らせると、案内すると申し出てくれた。
歩き出したリナリーの後ろを俺はついてアリアの部屋から出ようとした。
その時だった。
アリアが少し恥ずかしそうに俯きながら語り掛けてきた。
『あ……あの』
『ん? どうした?』
アリアの言葉が頭の中に流れて、俺は振り返ってアリアに視線を向けた。
『ノヴァ……あの……えっと一緒に寝てくれませんか?』
『ん? 今なんて言った?』
俺は頭に流れてきた言葉を理解することができなかった。
だから、思わず聞き返してしまう。
今、一緒に寝て欲しいと言われた気がした。
馬鹿だな。そんなことあるわけないだろ? なんたって、アリア……そして、リナリーには俺が元人間の男だということを話した。
先日、元人間の男の俺とキスしたことを認識しただけで気絶してしまうほどにウブなアリアである。そんな彼女が俺と一緒に寝たいという意味が分からなかった。
実際に宿屋では同じ部屋だったがベッドは離れていて一緒に寝るということはなかった。
『えっと、一緒に寝て欲しいのです』
『聞き間違いだと思っていたんだが……やっぱり言っていた。アリアも俺が元人間の男だと知っているだろ? なんで、そんな考えに至ったんだ?』
『ノヴァは元人間ですが……今はもふもふです。もふもふなんです! だからいいのです!』
『……? ん? んん?』
ダメだ。俺の理解が追い付かない?
どういうこと?
俺がもふもふだからなんだと言うんだ?
『えっと、えっと、ノヴァに触っていると気持ちよくて……幸福な気分になって……嫌なことを忘れちゃうんです。だから、一緒に寝てください。お願いします』
アリアは今にも泣いてしまいそうな表情で俺に懇願してくる。
俺の理解は全然……全く追い付いていない。しかし、俺はアリアの表情を見て断れないことを察した。
今まで黙って聞いていたリナリーが小さく笑った。そして、リナリーの声が頭の中に流れてくる。
『ノヴァ、今日はアリア様と一緒に寝てあげてください』
『そう……だな。わかった。わかった。今日はそうしようかな?』
リナリーまで一緒に寝ることに対して賛成側に回られてしまったら、どうやっても勝てない。
『本当ですか? ありがとうございます。早く、ノヴァ、こっちに来てください!』
『なんだか、元気になってないか?』
『それは……言ってはいけません』
アリアのベッドの上にあがると、俺はアリアによって毛布の中に抱き寄せられてしまう。
俺を抱きしめたアリアはいい笑顔だった。
その笑顔を見て、俺は仕方ないと気持ちになっていた。
更に言うならば、前世では、目つきが怖く強面で子供には等しく視線を合わせるだけで怖がられて……よく泣かれていたのだ。
それに比べたら……笑顔にできる現状は悪くないと思ってしまっていた。
俺がそんなことを考えていると、アリアはすでにうつらうつらして眠りに入っている。すごく寝つきがいい子だ。
アリアが眠ったことで、【ハーネットの指輪】の効力がそろそろ切れるかなと思っていると、リナリーの言葉が俺の頭の中に響いた。
『ただ、先に言っておきますが。ノヴァ。アリア様に手を出したら分かっていますね。もう一度私と決闘することになりますからね』
『いや、逆にどうやって手を出せと!?』
その言葉を最後にアリアが使っていた【ハーネットの指輪】の効果が切れて、言葉が頭の中に流れなくなった。
リナリーは静かに部屋から出ていくのを見送ると俺は一回あくびをする。
そして、アリアの暖かいぬくもりを心地よく感じながらゆっくりと眠りについたのだった。
◆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◆
0
お気に入りに追加
289
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ぽっちゃりおっさん異世界ひとり旅〜目指せSランク冒険者〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
酒好きなぽっちゃりおっさん。
魔物が跋扈する異世界で転生する。
頭で思い浮かべた事を具現化する魔法《創造魔法》の加護を貰う。
《創造魔法》を駆使して異世界でSランク冒険者を目指す物語。
※以前完結した作品を修正、加筆しております。
完結した内容を変更して、続編を連載する予定です。

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる