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十一話 古い教会。
しおりを挟むブルックベンの街に着いて一時間が経った。
俺とアリア、リナリーは街にあった宿屋に入って、荷物を置くと、街中を歩いていた。
『ここは英雄が生まれた街のことだが、何か観光地的な場所はあるのか? 英雄が生まれた家とかないのか? 八百年前の建物は残っていないだろうが、そういうのって収入源にするために立て直したりなったりするんだろ?』
アニメ、アルプスの少女アイジで登場したお爺さんとアイジが住んだ家を再現して、観光資源として金稼ぎしていると聞いたことがある。
俺の問いかけに、アリアは苦笑しながらも答えてくれた。
『ハハ……この街には八百年前にあった最古の教会の遺跡が残っているだけですね。その教会で英雄が魔法を学んだとされています』
『へーすごいじゃん。そこに行きたい』
『いいですが。少しガッカリするかも知れません。私も一回行きましたが、ガッカリしましたし』
『えーそうなのか?』
『その教会はエレードラ教会と言うのですが。今は廃れてしまった宗教の教会で管理する者がおらず、辛うじて遺跡として残っているという感じですね』
『んーけど、一回行ってみよう』
『はい。確か道はこちらでしたよね? リナリー』
アリアはブルックベンの街の南の方を指さして、後ろに控え歩いていたリナリーに視線を向ける。
『はい。そうですね。そちらの方角、この街の外れに位置していました』
『では、いきましょうか』
『あのアリア様少し距離がありますし、おんぶしなくてよろしいのですか?』
『少し頑張ってみます』
『本当ですか?』
『大丈夫です』
アリアが少し胸を張って答えた。
その答えを聞いたリナリーは感動したような
『ああ、アリア様から自発的に体を鍛える気になってくれるとは……私、とても嬉しいです』
黙って二人の会話を聞いていたが、ここで俺が口をはさむ。
『体鍛えた方がいいと言った手前少し言いにくいが……本当に大丈夫なのか? いきなり過ぎないか?』
『大丈夫ですよ。だって、今日はほとんど馬車に乗っていて体力はいっぱい残っているので』
『そうか』
俺とアリアの会話を聞いていた、リナリーがぽんと手を叩いた。
『そうですね。アリア様、行けるところまで行きましょうか』
『わかりました。できる限り頑張ります』
アリアは先導するように先に歩き出した。
俺とリナリーはアリアの後ろを追うように歩き出した。
ブルックベンの街中から歩き始めて二十分。
俺とリナリー、そして、リナリーにおんぶされたアリアがエレードラ教会の遺跡の近くまでやってきていた。
『無理だったんだな』
『……』
俺がアリアに言葉を投げかけるが、返事が返ってこなかった。
アリアはエレードラ教会の遺跡に向け歩き始めて十~十五分くらいしたところで、その場に座り込んでしまったのだ。
『やっぱり、アレか? この意思疎通する魔導具……【ハーネットの指輪】をずっと使っているから……マナを使いすぎていることも関係しているのかな?』
『たぶん、きっとそうです。魔導具を使っていますから、歩けなくなってしまったんです』
アリアが握り拳を作って力説した。
その時、リナリーが立ち止まってアリアに視線を向けた。
『おかしいですね。マナと体力は全くの別物だったと記憶していますが』
『……』
リナリーが口を挟んでくると、アリアは再び黙ってしまった。
黙ってしまったアリアを気にせず、リナリーは前方を指さした。
『あ……アリア様、ノヴァ、エレードラ教会の遺跡に着きましたよ』
『リナリー、ありがとうございます』
『アリア様、降りられますか?』
『……お手数おかけしました』
リナリーがしゃがむと、アリアを降ろした。
すると、アリアはリナリーに申し訳なさそうにしながら小さく言葉が聞こえてきた。
ただ、リナリーは気にした様子もなく、小さく笑う。
『ふふ、今日は頑張られましたね。すごく驚きました』
『え? あ? やっぱり、そうですか? へへ』
『明日、熱を出さないといいですが』
『うう……き、きっと、大丈夫です』
『アリア様の大丈夫はあまり信用できませんからね』
『むむ。本当ですから。本当に大丈夫です』
アリアとリナリーの会話を聞きながら、俺はエレードラ教会の遺跡に目を向ける。
エレードラ教会の遺跡は八百年前にあった最古の教会である。
ちゃんと管理されていれば問題なかったかもしれないが、使われなくなってだいぶ経っているようで、建物の外からでも積み上げられた岩の壁がいたるところで崩れ、天井が落ちている場所もあってボロボロな状態であるのが分かった。
『本当にボロボロ』
俺はいち早く壁が崩れてしまっている場所から教会の中に入っていく。
教会内に入ると正面の壁に大きな壁画が描かれているのが目に入ってきた。
ただ、その壁画のまわりの壁や天井に崩れている場所があり、そこからの雨と風に浸食や時の流れによる劣化で、壁画はぼやけている状態になっていた。
何が描かれていたのか?
うっすらと確認できるのは、丸い円の中に複雑な図形、何やら文字、太陽、月、見覚えない動物などが記されていた。
『うう……この壁画、綺麗な状態で見たかったなぁ』
『この壁画は……そうですね。綺麗な状態で見てみたいですね』
『修復とかできればいいのですが』
いつの間にか、近くにいたアリアとリナリーの二人が俺のつぶやきに同意し頷く。
『綺麗に修復できればいいが……浸食と劣化が激しすぎるから、復元は無理かも知れないな』
俺は壁画を見つめながら呟く。そして、首を横に振った。
三十分ほど倒壊しそうなところを避けつつ、エレードラ教会の遺跡を見て回った。
だが、どこも浸食と劣化が激しくてとても残念だった。
待ち合わせ場所にしていたエレードラ教会の前にあった開けた空地に行くと、すでにアリアとリナリーは俺を待ってくれていた。
俺がアリアに近づくと、アリアは再び【ハーネットの指輪】で意志疎通のできるようにしてくれた。
『ただいま』
『お帰りなさい。どうでした?』
『どこもかしこも、ボロボロ』
『さて、ノヴァもきたことですし。帰りますか……アリア様。私の背中に乗ってください』
『はい。お手数おかけします』
リナリーがしゃがみこむと、そこにアリアが乗って背負われた。
こうして、俺達がエレードラ教会の遺跡を後にした。
ただ、歩き始めて五分ほど経った時だった。
ズドンっと大きな何かが地面に激突したような音とともに、地面が揺れた。
その音と揺れがエレードラ教会の遺跡の方からだったので戻ってみると……エレードラ教会の遺跡で初めにみた壁画の大きな壁が崩れて倒れてしまっていた。
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