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五話 幼女。アリアサイド
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◆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◆
馬車から降りた私はバルベルの森を聖獣の銀猫の住処を探索しました。
その探索が三時間を過ぎようとした時でした。
ようやく、聖獣の銀猫の住処を発見しましたが……。
その住処での惨状を目の当たりにしてハッと息をのみました。
「ひどい……何ですか。これ」
「……何者かに襲われた後なのでしょうか?」
「……すみません、ちょっと」
辺りを見回していたメイドのリナリーが首を傾げて疑問を口にしました。
対して私は目を瞑ってスーッと細く息を吸って、心を整えます。
私は聖女なのです。
だから、街や村に赴いて治癒する善行祭に参加して、治癒してもう助からない人というのは多く見てきました。
普通の人よりは人の死に近いところにいると思います。
けれど、死に慣れているという訳ではないので心の準備……心を整える必要があるのです。
しばらく胸に手を当てて、私の心を整える。
そして、私の心が整ったところで、リナリーに視線を向ける。
「……何者かに襲われたのでしょうね」
「アリア様……体調がすぐれないのでしたら、すぐに馬車に戻りましょう」
リナリーの提案に私は首を横に振って答えました。
「いいえ、私のことなど今はどうでもいいです。……この子達を綺麗にしてちゃんと埋葬してあげましょう」
「はい、かしこまりました」
無残に転がる銀猫達を集めて並べていきます。
戦いの痕が残る住処と思われる洞窟の周辺を見回して、地面が黒く焼け焦げたところで丸まっているまだ小さい銀猫を見つけました。
「く……こんな、小さくかわいい子まで……」
私はその銀猫を抱きかかえよう、しゃがみ込んで触れた瞬間でした。
全身に流れるマナが吸われるような感覚に囚われたのです。そして、さらに、その銀猫はうっすら白く光りだしました。
「な……な?」
戸惑いを隠せないでいる私は触っていた銀猫から手をパッと放してしまいました。
すると、すぐにその銀猫から発せられた光も消えました。
その銀猫を見つめて固まったままでいると、リナリーが戻ってきて声を掛けてくれました。
「お嬢様、どうされましたか?」
「マナが奪われました……どういうこと? まさか……これが……私とこの子の波長が合ったということなのでしょうか?」
「波長とは何でしょう?」
「……はい。教皇様が言うにはまれに波長の合う聖獣様がいて、その聖獣様と【聖約】を結ぶと訓練次第で魔導具なしでも、欠損なくマナの共有ができるようになるそうです」
「そうなのですか……では、アリア様にとって惜しい聖獣を亡くしてしまったのですね」
「ってアレ? 波長が合ったということは……いけません! この子はまだ死んでいません! 助けないといけません!」
私は慌ててその波長が合った銀猫に再び触れました。今度はマナが奪われることはありませんでした。
その銀猫に触れて脈を取ってみると、かなり弱っていることが分かって危機感を覚えました。
「……かなり危険な状態です」
「大丈夫ですか? 先ほどマナが奪われたとおっしゃられていましたが……」
「まだ、大丈夫……少し離れてください」
……嘘です。
これは強がりです。
本当は私のマナの残量はかなり少ないです。
けれど、私に助けられる命があるなら絶対に助けたい。だったら……頑張らないといけませんね。
私は心の中では決意をして、銀猫の小さい体に触れる。
その銀猫を触れる手に力が入ります。
銀猫を仰向けに寝かせ、両手を前に突き出します。
次いで目を瞑り、大きく深呼吸をしました。
一テンポ開けて、ゆっくり口を開きます。
「……【ヒール】」
私が【ヒール】と口にすると、両手の手のひらから白い光が銀猫に降りてきて、銀猫の全身を光が包んでいきます。
その銀猫の体についていた小さな傷が徐々に消えていきました。
それから五分もしない内に銀猫についていた小さな傷はなくなり、表情も緩んだように見えました。
「ふぅ……このくらいかしら……」
私は大きく息を吐くと、両手の手のひらから放出されていた光が飛散して消えました。
マナが完全な枯渇状態で意識が飛んでしまいそうなのを、グッとこらえて銀猫の前足に触れます。
「……脈もだいぶ良くなりましてね」
「お疲れ様です。アリア様」
「あ、ありがとうございます」
近寄ってきたリナリーが飲み物の入った木のコップを手渡してくれました。
私は木のコップに口をつけて一息つきました。
「……それで、これからどうされるんですか? 急いで馬車に戻らないと、そろそろ日が暮れるのですが」
「そうですね。死んでしまった子達は埋葬してあげましょう。この生きている子は……えっと。聖獣様を住処から連れ去ることはよろしくないことですが……このままここに放置して危険でしょうから……連れて行きましょう」
それから私とリナリーは急ぎ死んでしまった銀猫達を埋葬し、生きていた銀猫を連れて日が暮れる前に乗ってきた馬車に戻ったのでした。
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馬車から降りた私はバルベルの森を聖獣の銀猫の住処を探索しました。
その探索が三時間を過ぎようとした時でした。
ようやく、聖獣の銀猫の住処を発見しましたが……。
その住処での惨状を目の当たりにしてハッと息をのみました。
「ひどい……何ですか。これ」
「……何者かに襲われた後なのでしょうか?」
「……すみません、ちょっと」
辺りを見回していたメイドのリナリーが首を傾げて疑問を口にしました。
対して私は目を瞑ってスーッと細く息を吸って、心を整えます。
私は聖女なのです。
だから、街や村に赴いて治癒する善行祭に参加して、治癒してもう助からない人というのは多く見てきました。
普通の人よりは人の死に近いところにいると思います。
けれど、死に慣れているという訳ではないので心の準備……心を整える必要があるのです。
しばらく胸に手を当てて、私の心を整える。
そして、私の心が整ったところで、リナリーに視線を向ける。
「……何者かに襲われたのでしょうね」
「アリア様……体調がすぐれないのでしたら、すぐに馬車に戻りましょう」
リナリーの提案に私は首を横に振って答えました。
「いいえ、私のことなど今はどうでもいいです。……この子達を綺麗にしてちゃんと埋葬してあげましょう」
「はい、かしこまりました」
無残に転がる銀猫達を集めて並べていきます。
戦いの痕が残る住処と思われる洞窟の周辺を見回して、地面が黒く焼け焦げたところで丸まっているまだ小さい銀猫を見つけました。
「く……こんな、小さくかわいい子まで……」
私はその銀猫を抱きかかえよう、しゃがみ込んで触れた瞬間でした。
全身に流れるマナが吸われるような感覚に囚われたのです。そして、さらに、その銀猫はうっすら白く光りだしました。
「な……な?」
戸惑いを隠せないでいる私は触っていた銀猫から手をパッと放してしまいました。
すると、すぐにその銀猫から発せられた光も消えました。
その銀猫を見つめて固まったままでいると、リナリーが戻ってきて声を掛けてくれました。
「お嬢様、どうされましたか?」
「マナが奪われました……どういうこと? まさか……これが……私とこの子の波長が合ったということなのでしょうか?」
「波長とは何でしょう?」
「……はい。教皇様が言うにはまれに波長の合う聖獣様がいて、その聖獣様と【聖約】を結ぶと訓練次第で魔導具なしでも、欠損なくマナの共有ができるようになるそうです」
「そうなのですか……では、アリア様にとって惜しい聖獣を亡くしてしまったのですね」
「ってアレ? 波長が合ったということは……いけません! この子はまだ死んでいません! 助けないといけません!」
私は慌ててその波長が合った銀猫に再び触れました。今度はマナが奪われることはありませんでした。
その銀猫に触れて脈を取ってみると、かなり弱っていることが分かって危機感を覚えました。
「……かなり危険な状態です」
「大丈夫ですか? 先ほどマナが奪われたとおっしゃられていましたが……」
「まだ、大丈夫……少し離れてください」
……嘘です。
これは強がりです。
本当は私のマナの残量はかなり少ないです。
けれど、私に助けられる命があるなら絶対に助けたい。だったら……頑張らないといけませんね。
私は心の中では決意をして、銀猫の小さい体に触れる。
その銀猫を触れる手に力が入ります。
銀猫を仰向けに寝かせ、両手を前に突き出します。
次いで目を瞑り、大きく深呼吸をしました。
一テンポ開けて、ゆっくり口を開きます。
「……【ヒール】」
私が【ヒール】と口にすると、両手の手のひらから白い光が銀猫に降りてきて、銀猫の全身を光が包んでいきます。
その銀猫の体についていた小さな傷が徐々に消えていきました。
それから五分もしない内に銀猫についていた小さな傷はなくなり、表情も緩んだように見えました。
「ふぅ……このくらいかしら……」
私は大きく息を吐くと、両手の手のひらから放出されていた光が飛散して消えました。
マナが完全な枯渇状態で意識が飛んでしまいそうなのを、グッとこらえて銀猫の前足に触れます。
「……脈もだいぶ良くなりましてね」
「お疲れ様です。アリア様」
「あ、ありがとうございます」
近寄ってきたリナリーが飲み物の入った木のコップを手渡してくれました。
私は木のコップに口をつけて一息つきました。
「……それで、これからどうされるんですか? 急いで馬車に戻らないと、そろそろ日が暮れるのですが」
「そうですね。死んでしまった子達は埋葬してあげましょう。この生きている子は……えっと。聖獣様を住処から連れ去ることはよろしくないことですが……このままここに放置して危険でしょうから……連れて行きましょう」
それから私とリナリーは急ぎ死んでしまった銀猫達を埋葬し、生きていた銀猫を連れて日が暮れる前に乗ってきた馬車に戻ったのでした。
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