神様の気遣いで転生したら聖女のペットに……。明日からは自立のため頑張って働こうと思う。

太陽クレハ

文字の大きさ
上 下
4 / 57

四話 黒い狼。

しおりを挟む
 ◆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◆



 なんだよ……これは……。


 俺は住処と思われる洞窟をでた。

 すると、深い森の中で黒い狼と親猫が激しい戦いを繰り広げていた。

 ただ、その戦いの風景は異様であった。

「シャーァ!」

「$%%&&#%$%$&……ワオーン!!」

 黒い狼が全身からバチバチと紫電を走らせて、遠吠え。

 すると、六つほどの電気の塊が出来上がって親猫に向かって放たれる。

 親猫は電気の塊をうまく躱して、前右足を振り下ろした。

 その前右足の爪が空気を切り裂いて斬撃となって黒い狼を切り裂いた。

 斬撃によって同時に土埃を上げた。

 ただ、その土埃が消えると……親猫の引っ掻く攻撃が当たったかに見えた黒い狼は無傷でそこに佇んでいた。

「$%&$%%&%%$$!」

 そこで黒い狼は何か話しているようだったが、俺にはわからない。

 今はそんなことより、電気を使ったり、地面をえぐる程の引っ掻き攻撃って……。

 どういうこと?

 あ……。

 もしかして、魔法?

 そんなこと、有り得……いや、わからない……。

 ここは今までの世界とは異なる可能性だってあるんだ。

 と言うか……なんていうか、これはまるで怪獣同士の戦いを見ているようだな。

 ただ、俺は分かっていた。

 二体の獣の戦いを見ていて、不利なのは……親猫であることを。



 三十分ほど、激しい戦いが繰り広げられていると、黒い狼は素早い動きで親猫を翻弄し……。

 そして、親猫の首元に噛みついたのだった。

 黒い狼の鋭い牙が深々と親猫の首元に突き刺さり、親猫はだらりと力を失った。

 その様子を見た時……俺の視界がぼやけて……目からは自然と涙がこぼれて止まらなくなった。

 転生し猫になった俺だが、親猫を親であるという感覚をまだ持っていなかった。

 なのに、なのに、涙が止まらなかった。

 涙をぬぐっていると、いつの間にか黒い狼がこちらに悠然と向かって来た。

 く……体格や腕力……何もかもが勝てない。

 逃げ……。

 俺は震える足で逃げようとした時、住処だった洞穴から「なぁーなぁー」と兄弟猫の鳴き声が聞こえてきた。

 聞こえてくる鳴き声に俺の足は止まった。

 俺は震える足でおもいっきり踏ん張り、地面を蹴って黒い狼に飛び掛かった。

「#$%%&!」

 黒い狼は表情すら変えずに飛び掛かる俺を前右足でバチンと振り払われる。

 そして、俺の体はあっけないほど簡単に地面に叩きつけられた。

 辛うじて意識は保っていたが、体は動いてくれなかった。

 黒い狼は住処だった洞窟に入っていく。

 洞窟からは兄弟猫達の鳴き声が大きくなって……そこで行われたことは俺の場所からは見ることはできなかったが。

 どうなっているのか……想像もしたくなかった。

 五分ほどが経っただろうか?

 口元を赤く染めた黒い狼が洞窟から戻ってきた、そのまま俺の方へと向かってきた。

 食われるのか……。

 逃げようにも体が痛くて動いてくれないから、俺にはどうしようもなかった。

「#$#$$%$##!」

 俺の体を黒い狼の右前足でつぶされない程度で踏まれて……身動き自体ができなくなった。

 俺はまた死ぬのか?

 生まれて数日くらいしか経ってないのに?

 くそ……死ぬのは嫌だ……。

 それでも今の俺では他人も……自分自身さえも守れない弱者だ。

 弱者に選べる選択肢などない。

 けど、もう死にたくない……。

 あの死の痛みをもう一度なんて……。

 絶対嫌だ!

 俺は死にたくない!

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないぃぃい!

「……こんな……こんなところで死んでたまるか!!」

 俺が強く絶叫するように日本語で叫ぶ。

 すると体がインフルエンザに侵された時のようにふわふわとした感覚に囚われる。

 その感覚と同時に俺の全身から真っ赤な炎が大きく立ち上った。

 炎は完全に油断し虚を突かれた黒い狼の手を焦がし、そのまま全身へと燃え広がっていく。

 何が起こったのか理解できなかった。

 理解できないが、このまま黒い狼が倒れてくれることを強く祈る。

 すると俺の体からさらに大きな炎が沸き上がって、黒い狼を襲った。

 黒い狼は振り払おうとのたうち回っていたが、炎の勢いは止まらなく、全身を焼け焦がした。

 そして、焼け焦がされた体で這いずるように俺の方にやってきた。

「+#*$%&$$」

 黒い狼は俺の目の前に手を伸ばしたところで、バサッと全身が黒い灰へ変わって消えてしまった。

 最後、黒い狼が何を言っているか、俺にはわからなかった。

 ただ、『次は必ず殺してやる』と言ったような気がした。

『レベルが二から二十四に上がりました』

『スキル【斬撃】を取得しました』

『スキル【肉体強化】を取得しました』

『スキル【巨大化】を取得しました』

『スキル【食育】を取得しました』

 ん……なんか聞えた気が……。

 頭の中に聞こえてきた声の意味を深く考える余裕はなく、俺はそこで完全に気を失ったのだった。



 ◆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◆
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

処理中です...