6 / 6
林間学校
しおりを挟む
嫁が通ってた小学校であったという話。
そこでは6年生が林間学校と称し、観光地とは程遠いド田舎に行かされる。
その日の日程では、昼間は登山、夜はお約束の肝試しが組まれていた。
小学生が教師に連れられ山を登っていると、道のわきにある岩に一人の老人が座っている。
体は道の反対を向き、顔だけを道の方に向けて、にこにこと子供達を見つめている。
その笑顔は翁の能面に似ていて、とても優しそうだった。
礼儀正しい生徒がその横を通り抜ける際、「こんにちは」と挨拶したが、老人は返事せずただにこにこしてるだけ。
訝しく思ってよく見ると、老人の脚が膝下までしかはっきり見えないことに気づく。
その先はぼやけており、向こう側の景色が透けて見えた。
だが昼間であるし、周りに級友もたくさんいたことから、
気がついた数人の生徒は口をつぐみ、あるいは気のせいだと自分を納得させ、
その時は大きな混乱にならなかったという。
そして夜。
肝試しと言っても、小学生の事だから大したものは行わず、
先生に連れられて、宿舎周辺の暗い道を散歩する程度のものだった。
それでも都会とは違い、伸ばした手の先も見えないほどの暗闇に、生徒達は十分怖がっていた。
一通りめぐって宿舎まであと少しという頃、畑の向こうの方にぼんやりと光っている何かが見える。
「あれなんだろうね?」と皆で首をかしげて見つめていると、
その光がゆっくりとした平行移動で、滑るように近づいてくる。
ある程度まで距離が縮んだ時、誰かが叫んだ。
「さっきのお爺さんだ!」
先ほどの老人がぼうっとした光を放ちながら、
透けた脚を動かすことなく、文字通り滑るようにすーっとこちらに来るのだ。
顔には相変わらず笑顔を浮かべたままで。
何とか全員無事に宿舎に逃げ帰れたが、生徒達の動揺は収まらず、
翌日先生たちはお寺に相談して、お祓いをしてもらったという。
宿舎で生徒達の食事を作ってくれる地元のおばさん達は、この爺さんの特徴を聞くや口をそろえてこう言った。
「それは、山田さん(仮)のお爺さんじゃないか!」
山田さんというのは、近所でも有名な孫思いの爺さんだったが、
大事な孫が不幸にも幼くして亡くなって以来、気が触れてしまったそうだ。
小さな子供を見かけると、「(孫)や、こんな所にいたのかい」と言って、
勝手に自分の家に連れ帰ってしまう事が何度もあった。
だが子供に怪我をさせるわけでもなく、もとは温厚な性格だった爺さんを皆が憐れんでいたため、
警察沙汰になったことはなかったという。
「自身が死んでなお孫の死を悼んでいるのかね」と言って涙ぐむおばさん達。
これ以降、林間学校での肝試しは絶対禁止になったらしい。
俺は、悪霊ってわけでもなさそうなのに禁止なんて、少し大袈裟か?と思ったが、それには後日談があるらしい。
生徒全員宿舎に入ったことを確認するため、最後まで外に残った先生方は、
近づいてきた老人をかなり間近で見たそうだ。
その先生方が言うことには、
「生徒達は皆優しそうな笑顔だったって言うけど、私たち教師には怒り狂った表情に見えたんですよね」
一体どっちがお爺さんの本心なんだろう?と、その小学校では今でも有名な話らしい。
そこでは6年生が林間学校と称し、観光地とは程遠いド田舎に行かされる。
その日の日程では、昼間は登山、夜はお約束の肝試しが組まれていた。
小学生が教師に連れられ山を登っていると、道のわきにある岩に一人の老人が座っている。
体は道の反対を向き、顔だけを道の方に向けて、にこにこと子供達を見つめている。
その笑顔は翁の能面に似ていて、とても優しそうだった。
礼儀正しい生徒がその横を通り抜ける際、「こんにちは」と挨拶したが、老人は返事せずただにこにこしてるだけ。
訝しく思ってよく見ると、老人の脚が膝下までしかはっきり見えないことに気づく。
その先はぼやけており、向こう側の景色が透けて見えた。
だが昼間であるし、周りに級友もたくさんいたことから、
気がついた数人の生徒は口をつぐみ、あるいは気のせいだと自分を納得させ、
その時は大きな混乱にならなかったという。
そして夜。
肝試しと言っても、小学生の事だから大したものは行わず、
先生に連れられて、宿舎周辺の暗い道を散歩する程度のものだった。
それでも都会とは違い、伸ばした手の先も見えないほどの暗闇に、生徒達は十分怖がっていた。
一通りめぐって宿舎まであと少しという頃、畑の向こうの方にぼんやりと光っている何かが見える。
「あれなんだろうね?」と皆で首をかしげて見つめていると、
その光がゆっくりとした平行移動で、滑るように近づいてくる。
ある程度まで距離が縮んだ時、誰かが叫んだ。
「さっきのお爺さんだ!」
先ほどの老人がぼうっとした光を放ちながら、
透けた脚を動かすことなく、文字通り滑るようにすーっとこちらに来るのだ。
顔には相変わらず笑顔を浮かべたままで。
何とか全員無事に宿舎に逃げ帰れたが、生徒達の動揺は収まらず、
翌日先生たちはお寺に相談して、お祓いをしてもらったという。
宿舎で生徒達の食事を作ってくれる地元のおばさん達は、この爺さんの特徴を聞くや口をそろえてこう言った。
「それは、山田さん(仮)のお爺さんじゃないか!」
山田さんというのは、近所でも有名な孫思いの爺さんだったが、
大事な孫が不幸にも幼くして亡くなって以来、気が触れてしまったそうだ。
小さな子供を見かけると、「(孫)や、こんな所にいたのかい」と言って、
勝手に自分の家に連れ帰ってしまう事が何度もあった。
だが子供に怪我をさせるわけでもなく、もとは温厚な性格だった爺さんを皆が憐れんでいたため、
警察沙汰になったことはなかったという。
「自身が死んでなお孫の死を悼んでいるのかね」と言って涙ぐむおばさん達。
これ以降、林間学校での肝試しは絶対禁止になったらしい。
俺は、悪霊ってわけでもなさそうなのに禁止なんて、少し大袈裟か?と思ったが、それには後日談があるらしい。
生徒全員宿舎に入ったことを確認するため、最後まで外に残った先生方は、
近づいてきた老人をかなり間近で見たそうだ。
その先生方が言うことには、
「生徒達は皆優しそうな笑顔だったって言うけど、私たち教師には怒り狂った表情に見えたんですよね」
一体どっちがお爺さんの本心なんだろう?と、その小学校では今でも有名な話らしい。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【短編】怖い話のけいじばん【体験談】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。
スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【1分で読めるショートショート】ゾクッとする話
しょしお
ホラー
日常に潜むちょっと怖い話です。暇つぶしにどうぞ。不定期ですが、少しずつ更新していきます。
中には1分で読めないもの、ジョークものありますがご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる