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8. シャーロット(1)
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その朝はいつものように目覚めた。ボウルで顔を洗い、服を着替えたシャーロットは部屋から出る。
「おはよう」
通りかかった使用人の一人に声をかけるが、無視された。他の者も同じ態度だ。
きっとエレインの指示だろう。よくまあ、次々と新しい嫌がらせをしてくるものだ。そう思っていた。
「シャーロットはどうしたんだ」
「それが、見当たらないようなのです。侍女が探していました」
「どこへ行ったのかしら?人騒がせな娘ね」
叔父夫婦の会話を聞いて、ようやくおかしいと気付く。
「お嬢様を見ませんでしたか?」と聞き回っているコリンナの耳元で『コリンナ、ここよ!私はここにいるわ!』と叫んでも、彼女は振り向かない。みな、自分が見えていないのだ。
自分には自分の手足が見えている。だが鏡を見て愕然とした。そこには誰も映っていなかったのだ。
もしや、自分は死んだのだろうか?
だが、物に触ることは出来た。ペンを持てば字も書ける。
(もしかして……昨夜の祈りが原因……?)
昨日は、我が家で貴族婦人やその令嬢たちを招いたお茶会が開かれていた。レイナからは絶対に客人に姿を見せてはならないときつく言われている。
大人しく書き物をしていたシャーロットだったが、インクが無くなっている事に気づいた。コリンナに持ってきて貰おうと、人目を避けながら侍女を探すシャーロット。その耳に、男女の囁き声が聞こえてきた。
「いいじゃないか。いずれ結婚する仲だ。愛してるよ、エヴリーヌ」
「本当ですの?その割にはなかなか婚約話を進めて下さらないじゃない」
「あー……。今は従姉妹の成人を控えて、ちょっとごたごたしていてね」
「従姉妹って、前クレヴァリー伯爵のご令嬢?シャーロット様といったかしら」
「ああ。今は一緒に住んでいるんだ。君も、嫁ぎ先に余計な人間がいるのは嫌だろう?あの娘は相続手続きが済み次第、領地へ送る予定だ。それが片づいたら、すぐに結婚の準備を始めよう」
男がレナードであることにはすぐに気づいた。
従弟に対して恋愛感情を抱いていたわけではない。だけど彼はブレント一家の中で唯一、シャーロットに優しい言葉を掛けてくれた人だ。だから兄のように慕っていた。
それが建前だったとしても、シャーロットはそれに縋りたかった。誰か一人でも自分を愛し、自分を必要としてくれる人がいると思いたかたった。
だけど目の前の現実は、それが幻想に過ぎないことを彼女へ突きつける。
(この家に私の居場所は無い……。いいえ、この家だけじゃない。お父様もお母様も、お祖父様もお祖母様もいない今、私を真に必要としてくれる人なんて誰もいないんだわ)
だから女神様に祈ったのだ。
この世から消えてしまいたいと。
信心深い母が大切にしていた女神像に、シャーロットもまた毎日祈りを欠かさなかった。
そんな彼女に女神様がほんの少し、慈悲を与えたのかもしれない。
「おはよう」
通りかかった使用人の一人に声をかけるが、無視された。他の者も同じ態度だ。
きっとエレインの指示だろう。よくまあ、次々と新しい嫌がらせをしてくるものだ。そう思っていた。
「シャーロットはどうしたんだ」
「それが、見当たらないようなのです。侍女が探していました」
「どこへ行ったのかしら?人騒がせな娘ね」
叔父夫婦の会話を聞いて、ようやくおかしいと気付く。
「お嬢様を見ませんでしたか?」と聞き回っているコリンナの耳元で『コリンナ、ここよ!私はここにいるわ!』と叫んでも、彼女は振り向かない。みな、自分が見えていないのだ。
自分には自分の手足が見えている。だが鏡を見て愕然とした。そこには誰も映っていなかったのだ。
もしや、自分は死んだのだろうか?
だが、物に触ることは出来た。ペンを持てば字も書ける。
(もしかして……昨夜の祈りが原因……?)
昨日は、我が家で貴族婦人やその令嬢たちを招いたお茶会が開かれていた。レイナからは絶対に客人に姿を見せてはならないときつく言われている。
大人しく書き物をしていたシャーロットだったが、インクが無くなっている事に気づいた。コリンナに持ってきて貰おうと、人目を避けながら侍女を探すシャーロット。その耳に、男女の囁き声が聞こえてきた。
「いいじゃないか。いずれ結婚する仲だ。愛してるよ、エヴリーヌ」
「本当ですの?その割にはなかなか婚約話を進めて下さらないじゃない」
「あー……。今は従姉妹の成人を控えて、ちょっとごたごたしていてね」
「従姉妹って、前クレヴァリー伯爵のご令嬢?シャーロット様といったかしら」
「ああ。今は一緒に住んでいるんだ。君も、嫁ぎ先に余計な人間がいるのは嫌だろう?あの娘は相続手続きが済み次第、領地へ送る予定だ。それが片づいたら、すぐに結婚の準備を始めよう」
男がレナードであることにはすぐに気づいた。
従弟に対して恋愛感情を抱いていたわけではない。だけど彼はブレント一家の中で唯一、シャーロットに優しい言葉を掛けてくれた人だ。だから兄のように慕っていた。
それが建前だったとしても、シャーロットはそれに縋りたかった。誰か一人でも自分を愛し、自分を必要としてくれる人がいると思いたかたった。
だけど目の前の現実は、それが幻想に過ぎないことを彼女へ突きつける。
(この家に私の居場所は無い……。いいえ、この家だけじゃない。お父様もお母様も、お祖父様もお祖母様もいない今、私を真に必要としてくれる人なんて誰もいないんだわ)
だから女神様に祈ったのだ。
この世から消えてしまいたいと。
信心深い母が大切にしていた女神像に、シャーロットもまた毎日祈りを欠かさなかった。
そんな彼女に女神様がほんの少し、慈悲を与えたのかもしれない。
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