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3. レナード
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クレヴァリー子爵令息レナードの生活は、叔父夫婦が亡くなってから一変した。
住まいは豪奢な伯爵邸に移り、多くの使用人に傅かれた。着る物も食事も今までとは比べ物にならないくらい上質だ。通っていた貴族学院では、今までほとんど接点の無かった高位貴族の令息令嬢から話し掛けられた。皆はレナードの父、ブレントが伯爵位を継いだものと勘違いしていたのである。
学園側は爵位に関わらず生徒は平等であると唄っているが、実際のところ、爵位によるヒエラルキーは存在するのだ。突然高位貴族の仲間入りをしたレナードは、子爵位以下の者たちからは羨望の眼差しを受け、令嬢たちからは盛んに秋波を送られた。
それがとても良い気分だったので、レナードは勘違いを訂正しなかった。どうせいずれは伯爵になるのだ。それが早いか遅いかだけの違いだ。
そんな彼へと近付いてきた令嬢の一人が、エヴリーヌ・ダルトワ伯爵令嬢であった。
彼女は学内で評判の美人であり、レナードも密かに憧れていた。だが伯爵令嬢である彼女が、ちっぽけな領地しかない子爵家の跡継ぎを選ぶわけはない。そう考えて諦めていた。
だが名門クレヴァリー家の当主なら……彼女を妻とすることも夢ではない。
あっという間に二人は恋仲となった。
「早く両親に申し出て頂けませんと、私、他の殿方と婚約してしまうかもしれませんわ」
そんな風に言われて焦ったレナードは、エヴリーヌへ求婚してしまった。
無論、シャーロットのことは話していない。エヴリーヌは純粋にレナードの正妻になれると思っている。
レナードは、シャーロットのことを嫌いではなかった。見た目は悪くないし、生意気で我が儘な妹に比べて控えめな所も良い。
父からシャーロットとの婚約が決まったと言われた時は、喜んだくらいだ。なにせ、彼女と結婚すれば伯爵になれるのだから。
だからシャーロットを虐める妹を諫めもしたし、時には彼女へ優しい言葉も掛けてやった。
しかしレナードにとってシャーロットは妹のようなものであり、女性として惹かれているのはエヴリーヌだった。
(エヴリーヌと結婚するためには伯爵位が必要だ……。そうだ!シャーロットと結婚した後にエヴリーヌを正妻とし、シャーロットを第二夫人にすればいい)
この国では、王族及び高位貴族のみ複数の妻を持つことが認められている。
シャーロットとは白い結婚にしよう。もしエヴリーヌが嫌がるようなら、シャーロットを領地へ押し込めればいい。そうすれば、エヴリーヌはシャーロットと顔を合わせなくて済む。
色々と穴だらけの計画である。だが恋に浮かれたレナードは、何とかなるだろうと考えていた。
あの日は我が家でお茶会が開かれており、エヴリーヌもそこへ招かれていた。レナードは彼女を庭へ連れ出し、木陰で愛を囁いていたのだ。
「もう……レナードったら、こんなところで」
「いいじゃないか。いずれ結婚する仲だ。愛してるよ、エヴリーヌ」
そうして抱き合った背中ごしに、走り去っていくシャーロットの姿が見えた。
追いかけて弁解するべきだったかもしれない。だがエヴリーヌを離すわけにもいかず、結局そのままにしてしまった。
(シャーロットには後で謝ろう。結婚前の火遊びとでも言っておけばいい。優しい彼女なら、許してくれるだろう)
だがその機会は失われてしまった。シャーロットはその翌日、姿を消してしまったのだ。
住まいは豪奢な伯爵邸に移り、多くの使用人に傅かれた。着る物も食事も今までとは比べ物にならないくらい上質だ。通っていた貴族学院では、今までほとんど接点の無かった高位貴族の令息令嬢から話し掛けられた。皆はレナードの父、ブレントが伯爵位を継いだものと勘違いしていたのである。
学園側は爵位に関わらず生徒は平等であると唄っているが、実際のところ、爵位によるヒエラルキーは存在するのだ。突然高位貴族の仲間入りをしたレナードは、子爵位以下の者たちからは羨望の眼差しを受け、令嬢たちからは盛んに秋波を送られた。
それがとても良い気分だったので、レナードは勘違いを訂正しなかった。どうせいずれは伯爵になるのだ。それが早いか遅いかだけの違いだ。
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彼女は学内で評判の美人であり、レナードも密かに憧れていた。だが伯爵令嬢である彼女が、ちっぽけな領地しかない子爵家の跡継ぎを選ぶわけはない。そう考えて諦めていた。
だが名門クレヴァリー家の当主なら……彼女を妻とすることも夢ではない。
あっという間に二人は恋仲となった。
「早く両親に申し出て頂けませんと、私、他の殿方と婚約してしまうかもしれませんわ」
そんな風に言われて焦ったレナードは、エヴリーヌへ求婚してしまった。
無論、シャーロットのことは話していない。エヴリーヌは純粋にレナードの正妻になれると思っている。
レナードは、シャーロットのことを嫌いではなかった。見た目は悪くないし、生意気で我が儘な妹に比べて控えめな所も良い。
父からシャーロットとの婚約が決まったと言われた時は、喜んだくらいだ。なにせ、彼女と結婚すれば伯爵になれるのだから。
だからシャーロットを虐める妹を諫めもしたし、時には彼女へ優しい言葉も掛けてやった。
しかしレナードにとってシャーロットは妹のようなものであり、女性として惹かれているのはエヴリーヌだった。
(エヴリーヌと結婚するためには伯爵位が必要だ……。そうだ!シャーロットと結婚した後にエヴリーヌを正妻とし、シャーロットを第二夫人にすればいい)
この国では、王族及び高位貴族のみ複数の妻を持つことが認められている。
シャーロットとは白い結婚にしよう。もしエヴリーヌが嫌がるようなら、シャーロットを領地へ押し込めればいい。そうすれば、エヴリーヌはシャーロットと顔を合わせなくて済む。
色々と穴だらけの計画である。だが恋に浮かれたレナードは、何とかなるだろうと考えていた。
あの日は我が家でお茶会が開かれており、エヴリーヌもそこへ招かれていた。レナードは彼女を庭へ連れ出し、木陰で愛を囁いていたのだ。
「もう……レナードったら、こんなところで」
「いいじゃないか。いずれ結婚する仲だ。愛してるよ、エヴリーヌ」
そうして抱き合った背中ごしに、走り去っていくシャーロットの姿が見えた。
追いかけて弁解するべきだったかもしれない。だがエヴリーヌを離すわけにもいかず、結局そのままにしてしまった。
(シャーロットには後で謝ろう。結婚前の火遊びとでも言っておけばいい。優しい彼女なら、許してくれるだろう)
だがその機会は失われてしまった。シャーロットはその翌日、姿を消してしまったのだ。
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