幸せは自分次第

藍田ひびき

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2. 夫のいない生活

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「初めまして、セルヴァン伯爵夫人。新婚生活は如何かしら?ぜひ色々お伺いしたいわ」
 
 マリアンヌにはお茶会の招待がたくさん舞い込んだ。皆、変わり者のセルヴァン伯爵が結婚したと聞いて興味津々なのだ。
 社交も当主夫人の大切な務め。マリアンヌは勿論、招待には全て応じた。

「私たち、楽しみにしてましたのよ。あの女嫌いとも噂されるセルヴァン伯が、ついにご結婚なさったのですもの!ね、伯爵はやはりマリアンヌ様にだけはお優しいのかしら?」
「優しいと思いますけれど……何せ、まだ数回しか顔を合わせておりませんので」

 ここで貴婦人たちは首を傾げた。頭の上には、疑問符が浮かんでいたに違いない。

「その……結婚なさって、もう半年以上お経ちになりますわよね?」
「旦那様はお仕事がとてもお忙しいので、王宮へ泊まり込んでいらっしゃるのです。帰宅されるのは二週間に一度くらいですわ」
「まあっ!いくらお仕事とはいえ、新妻をそんなに放っておくなんて。マリアンヌ様もさぞやお寂しいでしょう?」
「旦那様はこの国の為に、身を粉にして働いてらっしゃるのですもの。寂しいなんて言えませんわ。それに、文句を言う事は旦那様から禁じられてますし」
「え?」
 
「妻というものは常に夫の命に従うべきだと、旦那様はいつも仰ってますの。それに、家の事は全て私にお任せになると。旦那様のご信頼に応えなきゃと頑張ってるんですが、執務には慣れなくて執事に頼ってばかりですわ。きっと、皆さまは上手くこなしてらっしゃるのですよね。羨ましいですわ」

 貴婦人たちは顔を見合わせた。「ヤバい事を聞いちゃったわ」という表情になっている事に、当のマリアンヌだけは気付いていない。

「ま、まあ。そういう考え方の殿方も、いらっしゃいますわよね」
「そうね、うちの祖父もそのような事を言っていたわ。お若い方にはちょぉっと珍しいかもしれませんけどね」
「おほほほほ」
 
 お茶会は和やかに終了した。
 「奥様たちと仲良くなれたわ!」とホクホクしているマリアンヌと、微妙な顔をしている参加者たちは対照的ですらある。
 その後、ご夫人たちがセルヴァン伯爵の家庭事情について噂を広めまくったことは言うまでもない。マダムの口は羽より軽いのだ。
 
 
「貴方が、エルネストの妻になったという女かしら?」

 ある日、本邸へ見知らぬ婦人が押し掛けてきた。
 やたら派手なメイクに豊満な胸を見せつけるような襟の開いたドレスを着た彼女は、マリアンヌへじろじろと不躾な視線を投げつける。

「はい、マリアンヌと申します。あの、失礼ですが旦那様の知人の方でしょうか?」
「ふうん……地味な女ねぇ。私はロクサーヌ・ペリヤ。エルネストの恋人よ」
「えっ!?旦那様の恋人、ですか……?」
「ええ。彼が真に愛しているのはこの私。貴方なんて、ただのお飾りの妻よ」

 ロクサーヌは意地悪な笑みを浮かべながら、これみよがしにお腹の辺りをさすった。よく見ればお腹が少し膨らんでいる。
 曰く、彼女はエルネストが結婚する前からの恋人で、今は別宅を与えられてそちらに住んでいるらしい。
 
「ほら、私はこの通り身籠っているの。もし男の子だったら、セルヴァン伯爵家の跡継ぎになるわよねぇ。その母親が妾ってわけにはいかないでしょ?貴方、さっさと正妻の座を渡して身の振り方を考えた方がいいのじゃないかしら?」
「まあ。私のご心配をして下さるのですね。さすがは旦那様の恋人、お優しい方だわっ!」

 ニコニコと答えるマリアンヌ。
 まさかそんな返しをされるとは思っていなかったらしい。「変わった娘ね……」とこれまた微妙な顔をしながら、ロクサーヌは帰って行った。
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