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第一章 花嫁試験編
18. ノーヘッド・ノーラン(2)
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祭壇の間から逃げ出そうとした三人だが、デルフィーヌの一団に出口を塞がれる形となってしまった。彼女たちも突然の揺れに戸惑っていたらしい。モタモタとしているうちに、巨像が迫ってきた。
「岩の弾丸!」
フェリーチェが杖を巨像に向け、魔法を放った。岩の塊が先頭の巨像に向かって猛スピードで飛んでいく。
だが、巨像は片手でそれを弾き飛ばした。
「うえ~、全く効いてないな」
「魔法が駄目なら、これはどうかしら!」
「狂気の竜巻!!」
アレクサンドラは得意の回転蹴りを叩き込んだ。巨像が倒れる。しかしすぐに起き上がり、「何かぶつかった?」という感でぽりぽりと身体を掻いた。
胸の真ん中に入った蹴りの痕が、見る間に消えていく。恐るべき回復能力である。
こうなったらお手上げだ。その場にいた全員が我先にと逃げ出した。
「あれ、アンデッドでしょう?貴方のご親戚なのではございませんこと!?」
「会話の出来ない方を親戚に持った覚えはございませんわ!!」
全力で疾走しつつも嫌みは言うデルフィーヌに、思わず感心してしまった。感心している場合ではない。
「きゃあっ!」
「ディア!」
後ろを走っていた令嬢の一人がつまずき、デルフィーヌたちを巻き込んだ。団子状になって床に放り出された中にはディアナも含まれている。
へたり込んだ令嬢たちは巨像に囲まれてしまった。だが、囲んだだけで巨像は動かない。
「……?」
デルフィーヌが起き上がろうとした瞬間、巨像が一斉にそちらを向いた。
それで理解した。彼らは動くモノを目標としているのだ。
「どうやら、動かなければ襲ってこないようですわね」
「でもどうする?このまま永久に座ってたら、皆まとめて墓場のお仲間になっちまう」
「そうね……。デルフィーヌ様はともかく、ディアを放っておくわけにはいきませんわ」
「そうだな。あのイヤミ女はともかく、ディアを放っとくわけにはいかないよな」
「聞こえてますわよ!」
憤慨するデルフィーヌは無視して、アレクサンドラは地図を開いた。
「先ほどの通路を使えば何とか……」
「ん、何か思いついたのか?」
「フェリ、お願いがありますの」
作戦を聞いたフェリーチェは「任せろ!」と元気に請け負ってくれた。トラブルメーカーだが、こういう時には頼りになる娘だと思う。
(……いえ。そもそも今回の件はフェリのせいでしたわ)
前言撤回。いったん上げた彼女に対する評価を、底辺まで落とすことにした。
「さて、やりますわよ」
「よしきた。やーい、首無し野郎!こっちだ!!」
フェリーチェが大声で騒ぎながらその場でジャンプする。目論見通り、巨像はデルフィーヌたちを無視してこちらに向かってきた。
「のろまですこと!追いついてごらんあそばせ」
悪態をつきつつ、二人は通路の奥へ向かって走りだした。途中の分岐で、アレクサンドラは右の通路に滑り込んだ。巨像たちは一目散にフェリーチェを追っていく。彼女には、わざとドタドタと足を踏み鳴らして走るよう指示していたのだ。
アレクサンドラは、頭の中に地図を思い描きながら分岐を次々と曲がっていく。とある通路に出ると、向こうからフェリーチェが走ってくるのが見えた。先回りしていたのである。
「フェリーチェ、こちらですわよ!」
「おう!」
「彗星の槌!」
フェリーチェがアレクサンドラの横に到達したタイミングで、地面にかかと落としを叩き込んだ。
轟音とともに地面にぽっかりと大穴があく。
真っ直ぐに追いかけてきた巨像たちは、穴に嵌ってしまった。
迷っているときに見つけた通路である。地面がガタガタになっていたため、少しの衝撃で破壊することができたのだ。
八体が同時に落ちたので穴はギチギチだ。そのせいで脱出することができず、ジタバタとしている姿が何とも可笑しい。
「うまくいったな」
「さあ、ディアを助けに行きましょう」
二人はデルフィーヌやディアナと合流し、地上へ戻った。さすがのデルフィーヌも感謝するかと思いきや、いつもと変わらない態度である。可愛くない。まあしおらしくされても気持ち悪いので、これで良いのかもしれない。
「またあなたたちですか……。墓地を破壊するとは何事です!」
試験官に帰還を報告したところ、またもや女官長に怒られてしまった。人を助けるためだったと弁解したが、そもそも余計なスイッチを押したせいだと言われればぐうの音も出ない。結局、アレクサンドラとフェリーチェ、ディアナの三人は点数を減点されることになった。
「岩の弾丸!」
フェリーチェが杖を巨像に向け、魔法を放った。岩の塊が先頭の巨像に向かって猛スピードで飛んでいく。
だが、巨像は片手でそれを弾き飛ばした。
「うえ~、全く効いてないな」
「魔法が駄目なら、これはどうかしら!」
「狂気の竜巻!!」
アレクサンドラは得意の回転蹴りを叩き込んだ。巨像が倒れる。しかしすぐに起き上がり、「何かぶつかった?」という感でぽりぽりと身体を掻いた。
胸の真ん中に入った蹴りの痕が、見る間に消えていく。恐るべき回復能力である。
こうなったらお手上げだ。その場にいた全員が我先にと逃げ出した。
「あれ、アンデッドでしょう?貴方のご親戚なのではございませんこと!?」
「会話の出来ない方を親戚に持った覚えはございませんわ!!」
全力で疾走しつつも嫌みは言うデルフィーヌに、思わず感心してしまった。感心している場合ではない。
「きゃあっ!」
「ディア!」
後ろを走っていた令嬢の一人がつまずき、デルフィーヌたちを巻き込んだ。団子状になって床に放り出された中にはディアナも含まれている。
へたり込んだ令嬢たちは巨像に囲まれてしまった。だが、囲んだだけで巨像は動かない。
「……?」
デルフィーヌが起き上がろうとした瞬間、巨像が一斉にそちらを向いた。
それで理解した。彼らは動くモノを目標としているのだ。
「どうやら、動かなければ襲ってこないようですわね」
「でもどうする?このまま永久に座ってたら、皆まとめて墓場のお仲間になっちまう」
「そうね……。デルフィーヌ様はともかく、ディアを放っておくわけにはいきませんわ」
「そうだな。あのイヤミ女はともかく、ディアを放っとくわけにはいかないよな」
「聞こえてますわよ!」
憤慨するデルフィーヌは無視して、アレクサンドラは地図を開いた。
「先ほどの通路を使えば何とか……」
「ん、何か思いついたのか?」
「フェリ、お願いがありますの」
作戦を聞いたフェリーチェは「任せろ!」と元気に請け負ってくれた。トラブルメーカーだが、こういう時には頼りになる娘だと思う。
(……いえ。そもそも今回の件はフェリのせいでしたわ)
前言撤回。いったん上げた彼女に対する評価を、底辺まで落とすことにした。
「さて、やりますわよ」
「よしきた。やーい、首無し野郎!こっちだ!!」
フェリーチェが大声で騒ぎながらその場でジャンプする。目論見通り、巨像はデルフィーヌたちを無視してこちらに向かってきた。
「のろまですこと!追いついてごらんあそばせ」
悪態をつきつつ、二人は通路の奥へ向かって走りだした。途中の分岐で、アレクサンドラは右の通路に滑り込んだ。巨像たちは一目散にフェリーチェを追っていく。彼女には、わざとドタドタと足を踏み鳴らして走るよう指示していたのだ。
アレクサンドラは、頭の中に地図を思い描きながら分岐を次々と曲がっていく。とある通路に出ると、向こうからフェリーチェが走ってくるのが見えた。先回りしていたのである。
「フェリーチェ、こちらですわよ!」
「おう!」
「彗星の槌!」
フェリーチェがアレクサンドラの横に到達したタイミングで、地面にかかと落としを叩き込んだ。
轟音とともに地面にぽっかりと大穴があく。
真っ直ぐに追いかけてきた巨像たちは、穴に嵌ってしまった。
迷っているときに見つけた通路である。地面がガタガタになっていたため、少しの衝撃で破壊することができたのだ。
八体が同時に落ちたので穴はギチギチだ。そのせいで脱出することができず、ジタバタとしている姿が何とも可笑しい。
「うまくいったな」
「さあ、ディアを助けに行きましょう」
二人はデルフィーヌやディアナと合流し、地上へ戻った。さすがのデルフィーヌも感謝するかと思いきや、いつもと変わらない態度である。可愛くない。まあしおらしくされても気持ち悪いので、これで良いのかもしれない。
「またあなたたちですか……。墓地を破壊するとは何事です!」
試験官に帰還を報告したところ、またもや女官長に怒られてしまった。人を助けるためだったと弁解したが、そもそも余計なスイッチを押したせいだと言われればぐうの音も出ない。結局、アレクサンドラとフェリーチェ、ディアナの三人は点数を減点されることになった。
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