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第一章 花嫁試験編
11. ローブ・コンクール(1)
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「何ですって!ドレスが届かない?」
三日後にローブ・コンクール試験を控えたある日、執事のモーザから連絡が入った。ローブ・コンクールとは花嫁候補たちが自前のドレスで着飾り、その服装センスを競うものである。試験内容は事前に通知されていたため、アレクサンドラは城へ来る前に新しいドレスを注文していた。
「ドレスは本日城へ送る予定だったのですが、先日の長雨でレザルク街道が崩れ、通行禁止になっているため迂回路を使うしかなく……。そちらへ届くのは四日後の見込みとのことです」
通信魔石からモーザの返答が聞こえる。常に冷静な老執事の声が、申し訳なさそうな響きを伴っていた。
「別のルートはないのですか?」
「空路は予約で10日先まで埋まっており、迂回路は旅人や商隊が集中して大変に混みあっている状況です。それを狙った盗賊も出没し、現在は騎士団が対応に当たっています」
ドレスを注文していた店は、レザルク街道沿いの町シーニュにある。レザルク街道はシュペルヴィユ領の首都エカイユからデュヴィラール領へとつながる道路であり、普段から交通量の多い幹線道路だ。それが使えないとなれば他の道が混むのは当然だろう。
「申し訳ございません」
「……モーザのせいではないわ。仕方ありません。手持ちのドレスから見繕いましょう」
「いいえ。これは複数の搬入路を確保しておかなかった私めの失態です。お嬢様、カヴァスをお借りできますか」
「僕ですか!?」
横に控えていたカヴァスは、突然名前を呼ばれて驚いたのか素っ頓狂な声を上げた。
「彼の足なら何とか間に合うでしょう。私は今からシーニュへ向かい、ドレスを引き取って参ります。カヴァス、貴方はすぐにキャナルの町へ向かって下さい。そこで落ち合いましょう」
「なるほど、サーベントレ山中を通るのね」
「レザルク街道とは離れていますし、山道ですから混みあってはいないかと」
「分かりました。二人に任せるわ」
シュペルヴィユ領の町キャナルは、サーベントレ山のふもとにある田舎町だ。位置的には魔王直轄領側にあり、魔王城から行くのであればシーニュよりは近い。
話が終わる頃にはキャスが準備を整えていた。電光石火の早業である。カヴァスは旅装に着替え、すぐに出立した。
「それでは、行って参ります!」
「頼んだわよ、カヴァス」
執事見習いを見送った後、アレクサンドラは暫し考え込んだ。
長雨による崖崩れは仕方ないにしても、空路が全て埋まっているのは解せない。空輸ルートには貴族用の枠があり、デュヴィラール家ほどの高位貴族であれば優先的に使えるはずなのだ。つまり、侯爵家かそれ以上の貴族が空路を占有していると想定される。さらに、タイミングの良すぎる盗賊の出現。
(これではまるで、ドレスの搬送が妨害されているよう……。いえ、いくら何でも考えすぎですわね)
三日後にローブ・コンクール試験を控えたある日、執事のモーザから連絡が入った。ローブ・コンクールとは花嫁候補たちが自前のドレスで着飾り、その服装センスを競うものである。試験内容は事前に通知されていたため、アレクサンドラは城へ来る前に新しいドレスを注文していた。
「ドレスは本日城へ送る予定だったのですが、先日の長雨でレザルク街道が崩れ、通行禁止になっているため迂回路を使うしかなく……。そちらへ届くのは四日後の見込みとのことです」
通信魔石からモーザの返答が聞こえる。常に冷静な老執事の声が、申し訳なさそうな響きを伴っていた。
「別のルートはないのですか?」
「空路は予約で10日先まで埋まっており、迂回路は旅人や商隊が集中して大変に混みあっている状況です。それを狙った盗賊も出没し、現在は騎士団が対応に当たっています」
ドレスを注文していた店は、レザルク街道沿いの町シーニュにある。レザルク街道はシュペルヴィユ領の首都エカイユからデュヴィラール領へとつながる道路であり、普段から交通量の多い幹線道路だ。それが使えないとなれば他の道が混むのは当然だろう。
「申し訳ございません」
「……モーザのせいではないわ。仕方ありません。手持ちのドレスから見繕いましょう」
「いいえ。これは複数の搬入路を確保しておかなかった私めの失態です。お嬢様、カヴァスをお借りできますか」
「僕ですか!?」
横に控えていたカヴァスは、突然名前を呼ばれて驚いたのか素っ頓狂な声を上げた。
「彼の足なら何とか間に合うでしょう。私は今からシーニュへ向かい、ドレスを引き取って参ります。カヴァス、貴方はすぐにキャナルの町へ向かって下さい。そこで落ち合いましょう」
「なるほど、サーベントレ山中を通るのね」
「レザルク街道とは離れていますし、山道ですから混みあってはいないかと」
「分かりました。二人に任せるわ」
シュペルヴィユ領の町キャナルは、サーベントレ山のふもとにある田舎町だ。位置的には魔王直轄領側にあり、魔王城から行くのであればシーニュよりは近い。
話が終わる頃にはキャスが準備を整えていた。電光石火の早業である。カヴァスは旅装に着替え、すぐに出立した。
「それでは、行って参ります!」
「頼んだわよ、カヴァス」
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長雨による崖崩れは仕方ないにしても、空路が全て埋まっているのは解せない。空輸ルートには貴族用の枠があり、デュヴィラール家ほどの高位貴族であれば優先的に使えるはずなのだ。つまり、侯爵家かそれ以上の貴族が空路を占有していると想定される。さらに、タイミングの良すぎる盗賊の出現。
(これではまるで、ドレスの搬送が妨害されているよう……。いえ、いくら何でも考えすぎですわね)
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