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第一章 花嫁試験編
5. 交流会の夜(1)
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「わぁ~美味しそう!」
所狭しと並べられた料理に、令嬢たちが歓声を挙げた。
ここは魔王城の大食堂。休日の前に、花嫁候補たちを集めて夕食を兼ねた交流会が開催されたのである。
真っ白なクロスを敷いた長テーブルに乗っているのは、たっぷりのブゥールで焼かれたブフの肉やルレで煮込んだラグーやソモン魚のグラティン。クレームキャラメルにショコラのガトーなどのスイーツもある。
高位の貴族令嬢とはいえ育ち盛りの娘たちだ。食欲はそれなりにある。我先にと席につく彼女たちの後ろから、アレクサンドラはゆっくりとテーブルに歩み寄った。
この場は試験ではないが、護衛の近衛騎士や他の花嫁候補たちの目があるのだ。侯爵令嬢としてはしたない姿を見せることはできない。とはいえ、目はご馳走に釘付けだ。はやる気持ちを押さえてまずはサラッドを食し、その後ブフ肉に手を伸ばす。
「あら、このソースは良いお味ですわね」
侯爵家お抱えのシェフも十分腕が良いが、この料理は格別だ。見た目も味も洗練されている。
舌に広がる絶景をしばし堪能していたアレクサンドラの目に、デルフィーヌと取り巻きの三人が映った。中心にいる侯爵令嬢は黄色のイブニングドレスを来ており、とても目立つ。
(……花嫁候補しかいない内輪の食事会なのに、あんな目立つ格好をする必要があるのかしら)
自分が着ている淡い水色のイブニングドレスを見ながらそう思った。デルフィーヌの周囲には取り巻き以外にも数人の令嬢が集まって、会話に花を咲かせている。
アレクサンドラ自身はあまり群がるのが好きではないため、女学院時代も意図的に取り巻きを作るようなことはしてこなかった。それに対して、彼女はいつも人に囲まれていた気がする。
(王妃となれば、貴族の女性たちとは密に交流する必要があるでしょう。少し彼女を見習った方が良いかもしれませんね。業腹ですが。……業腹ですが)
大事なことなので2回言った。
デルフィーヌの他にもう一団、令嬢たちに群がられている人物がいた。護衛に加わっていた近衛隊長のシルヴィアだ。
「あのう……ベルンシュクール隊長は、騎士団長のご親戚なのですか?」
「団長は叔父にあたります」
「ということは、ベルンシュクール侯爵のお孫様でらっしゃいますの?」
「ウィ、お嬢さま」
ウィンクしながら答えた騎士に、少女たちは顔を赤くしてきゃーきゃーとかしましい声を上げた。それを見ていた隣席の令嬢が顔をしかめる。
「なんてはしたない。陛下の花嫁候補であるにも関わらず、他の殿方に対してあのように騒ぎ立てて……。そうは思われませんか、アレクサンドラ様」
「でもあの方、女性ですわよ」
「えっ!?」
彼女だけでなく、黙って会話を聞いていた周囲の席からも驚きの声が上がる。
「聞いたことがありますわ。ベルンシュクール伯爵のご令嬢は剣技に秀でていて、騎士となる道を選ばれたのだとか」
「まあ、素敵……!物語に出てくる男装の麗人のようですわ」
ベルンシュクール領を治めるベルンシュクール一族は武芸に秀で、代々王家の軍事に携わっている。侯爵も若い頃は騎士団長を努めていたはずだ。
(女だてらに近衛隊長を努めるとは、かなりお強いのでしょうね。一度手合わせをお願いできないかしら)
黄色い声を上げる令嬢たちとは全く別の意味で、アレクサンドラはシルヴィア隊長に興味を持った。
所狭しと並べられた料理に、令嬢たちが歓声を挙げた。
ここは魔王城の大食堂。休日の前に、花嫁候補たちを集めて夕食を兼ねた交流会が開催されたのである。
真っ白なクロスを敷いた長テーブルに乗っているのは、たっぷりのブゥールで焼かれたブフの肉やルレで煮込んだラグーやソモン魚のグラティン。クレームキャラメルにショコラのガトーなどのスイーツもある。
高位の貴族令嬢とはいえ育ち盛りの娘たちだ。食欲はそれなりにある。我先にと席につく彼女たちの後ろから、アレクサンドラはゆっくりとテーブルに歩み寄った。
この場は試験ではないが、護衛の近衛騎士や他の花嫁候補たちの目があるのだ。侯爵令嬢としてはしたない姿を見せることはできない。とはいえ、目はご馳走に釘付けだ。はやる気持ちを押さえてまずはサラッドを食し、その後ブフ肉に手を伸ばす。
「あら、このソースは良いお味ですわね」
侯爵家お抱えのシェフも十分腕が良いが、この料理は格別だ。見た目も味も洗練されている。
舌に広がる絶景をしばし堪能していたアレクサンドラの目に、デルフィーヌと取り巻きの三人が映った。中心にいる侯爵令嬢は黄色のイブニングドレスを来ており、とても目立つ。
(……花嫁候補しかいない内輪の食事会なのに、あんな目立つ格好をする必要があるのかしら)
自分が着ている淡い水色のイブニングドレスを見ながらそう思った。デルフィーヌの周囲には取り巻き以外にも数人の令嬢が集まって、会話に花を咲かせている。
アレクサンドラ自身はあまり群がるのが好きではないため、女学院時代も意図的に取り巻きを作るようなことはしてこなかった。それに対して、彼女はいつも人に囲まれていた気がする。
(王妃となれば、貴族の女性たちとは密に交流する必要があるでしょう。少し彼女を見習った方が良いかもしれませんね。業腹ですが。……業腹ですが)
大事なことなので2回言った。
デルフィーヌの他にもう一団、令嬢たちに群がられている人物がいた。護衛に加わっていた近衛隊長のシルヴィアだ。
「あのう……ベルンシュクール隊長は、騎士団長のご親戚なのですか?」
「団長は叔父にあたります」
「ということは、ベルンシュクール侯爵のお孫様でらっしゃいますの?」
「ウィ、お嬢さま」
ウィンクしながら答えた騎士に、少女たちは顔を赤くしてきゃーきゃーとかしましい声を上げた。それを見ていた隣席の令嬢が顔をしかめる。
「なんてはしたない。陛下の花嫁候補であるにも関わらず、他の殿方に対してあのように騒ぎ立てて……。そうは思われませんか、アレクサンドラ様」
「でもあの方、女性ですわよ」
「えっ!?」
彼女だけでなく、黙って会話を聞いていた周囲の席からも驚きの声が上がる。
「聞いたことがありますわ。ベルンシュクール伯爵のご令嬢は剣技に秀でていて、騎士となる道を選ばれたのだとか」
「まあ、素敵……!物語に出てくる男装の麗人のようですわ」
ベルンシュクール領を治めるベルンシュクール一族は武芸に秀で、代々王家の軍事に携わっている。侯爵も若い頃は騎士団長を努めていたはずだ。
(女だてらに近衛隊長を努めるとは、かなりお強いのでしょうね。一度手合わせをお願いできないかしら)
黄色い声を上げる令嬢たちとは全く別の意味で、アレクサンドラはシルヴィア隊長に興味を持った。
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