アレクサンドラはいつも前向き~アンデッド令嬢ですが魔王様に嫁いでみせます!

藍田ひびき

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第一章 花嫁試験編

3. 魔王への謁見

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「皆様お揃いのようですね。それでは始めさせていただきます」
 
 リーゼロッテ副隊長の呼びかけとともに、六人が雛壇へ上がった。それを見た令嬢たちは一斉に身を正して座り直す。

「私は宰相のレイモンと申します。まずは花嫁試験へのご足労に対して皆さまに御礼を申し上げます」

 レイモンと名乗った痩せぎすの鋭い目をした文官が、挨拶を述べた。

「皆さまがたにはこれから二ヶ月間、試験を受けていただきます。試験内容は歴史学、文学、政治学など、学問の総合的な習熟度を測る筆記試験と、剣術や魔法術、舞踏術など技を試す実技試験があります。試験結果は随時更新して離宮の廊下に張り出しますのでご確認下さい」

「最終試験が終わった際、総合順位トップのご令嬢が陛下の婚約者となる権利を得られます。ここまでで質問はございますか?」

 特に質問が上がらないため、レイモンは説明を続けた。

「こちらに控えておりますのが皆様の試験を監督するものたちです。左からベルンシュクール騎士団長、バルケロ魔法庁長官、オクレール女官長、フォルタン公爵夫人、ブルジェ貴族院副学長」
 
 紹介に反って一人一人が礼をする。

「それから、皆様がたの警護については近衛隊が担当します。こちらがシルヴィア・ベルンシュクール近衛隊長。こちらで過ごす上で何かお困りごとがありましたら、近衛隊士へご相談下さい」

 近衛隊長と紹介されたのは、銀の髪を後ろにまとめた切れ長の瞳を持つ若い騎士だった。その美しいたたずまいに、令嬢たちがほうっとため息を漏らす。中には騎士を指さしてヒソヒソと話をしている者もいる。

 ざわついた聴衆を前に、レイモン宰相がコホン、と咳をした。
 
「それでは、これより魔王陛下の謁見を行います」

 アレクサンドラは即座に椅子から降り、片膝をついて頭を垂れた。前後して他の令嬢たちも同じ体勢を取る。

 扉の開く音が聞こえた。その途端。
 全身にものすごい圧力を感じ、軽くうめいてしまった。
 
(……何ですの、この魔圧は!?まるで上から天の牛グアンナが乗っかっているよう)

 天の牛《グアンナ》を乗せた経験があるわけではない。ただ、そのくらい味わったことのない重圧だった。
 令嬢たちも全員苦しそうにしているが、この城の主は気にとめることもなくその間を通り抜けて玉座に座った。

「余がクローヴィス・クルワッハ・フォルトリウス15世である。顔を上げよ」

 重低だが大広間に響きわたる声だ。
 顔を上げろと言われてもこの圧力では身動きもできない。
 
(ええい!侯爵令嬢たるもの、ここで怯むわけにはいきませんわ!)
 
 アレクサンドラは全ての気力を込め、キッと頭を上げた。

 目に飛び込んできたのは、玉座に座る魔人。
 魔族を統べる最上位の存在。
 
 艶々とした黒く真っ直ぐな長髪に、鼻筋の通った顔立ち。羊の角のごとくカーブした長い二本の角。そして身長をゆうに越える黒い羽根。
 切れ長の黒い瞳は何の感情も浮かべず、ただこちらを見下ろしていた。その目に映るだけで身がすくんでしまうほどの畏怖を感じる。

 彼女とほぼ同時に頭を上げたデルフィーヌ、そのあとに数人の令嬢が続く。ディアナもその一人だった。しかしほとんどの令嬢は、首を上げるどころか身動きもできない様子である。

「ほう……余の覇気を受けて怯まぬ者がいるとは。なかなか骨のある娘もいるようだ」

 魔王が口を開いた。

「まずは、遠路はるばる来てくれたことに礼を述べよう。レイモンが説明したように、これから二ヶ月、そなたらには余の花嫁にふさわしいかどうか、試験を受けてもらう。」

 一息つくと、魔王は令嬢たちを見回すように首を動かした。

「そなたらは実家の意向を組んでの登城であろう。しかし、試験にそなたらの身分が影響を及ぼすことはない。余が望むのは、初代魔王の伴侶、アドリーヌ王妃の如く、強く気高く賢い花嫁だ」
 
「競え。闘え。その矜持にかけて体力、精神力、持てる全ての力を見せよ。最もつよさを示したものに、我が花嫁となる栄光を与えよう。そなたらの健闘を期待する」

「……以上だ」

 魔王が立ち去り、ようやく魔圧から解放されたアレクサンドラは、強張った身体をほぐしながら立ち上がった。他の令嬢たちもようやく動けるようになったのか、モゾモゾと立ち上がり始める。
 
「あれがクローヴィス陛下……?」
「何て恐ろしい……」

 娘たちはおそるおそるその名を口にした。涙目になっている者もいる。
 ここにいるのは、いわば深窓の令嬢ばかりである。あれほどの畏怖にさらされた経験などないだろう。それは、アレクサンドラも同じだった。だが、そこで怖気づく彼女ではない。

「面白いじゃございませんの。目標は高いほどやりがいがあると言うもの。必ずや、妃の座を手に入れて見せますわ!」
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