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番外編『デイジー、見てるぅ~?』

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「おいっ、早くしろよ!」
「待って、もう魔力が切れそうで……」
「またかよ。使えない女だなあ」

 毎日毎日こんな風に怒鳴られながら、魔力が尽きるまで鉱夫たちへ疲労回復の魔法を掛けさせられている。
 夕方にはヘトヘトになってベッドへ倒れこみ、死んだように眠る日々だ。

「なんで私がこんな目に遭わなきゃならないのよ……」


 あの日魔王討伐に参加したのはいいけれど、旅があんなにキツいなんて知らなかった。野営は身体が痛くてよく眠れないし、虫も寄ってくるし……。

 しかもアレン達はすぐに怪我をするから、治してたら魔力が足りなくなって。
 そしたらアレンが「エステルならこんな事はなかった」とか言い出したの。まるで私よりお姉ちゃんのほうが優秀だって言ってるみたいじゃない。

 失礼しちゃうわ!

 しかも段々、アレンの態度が冷たくなっていったの。
 アレンだけじゃない。戦士も魔法使いも、最初は「こんな可愛い娘がパーティに入ってくれるなら、エステルは要らないよ」なんてちやほやしてくれたのに、すぐに素っ気ない態度になった。
 
 こんな事なら、チェスター様の元にいた方がよっぽどマシよ。

 そう思ってこっそり抜け出して、街へ戻ったわ。だけどチェスター様に会わせて貰えるどころか、男爵家の屋敷に入れてすら貰えなかった。
 門の前で騒いでたら、出てきたローラット男爵に「何しに来たのだ、この売女が!二度とチェスターに近づくな!」と怒鳴られたの。

 ひどくない?私、チェスター様の婚約者なのに。

 そうこうするうちに衛兵がやってきて、私を捕まえて牢屋に入れた。
 その後、何だか良く分からない罪状を言われてここへ送られたの。両親は「すまない、自分たちにはどうすることもできない……」って泣いてた。

 お姉ちゃんには会えなかった。お姉ちゃんは聖女として勇者パーティへ戻ったらしいじゃない。それならどうして、私を助けてくれないの?


「おい囚人153号、届け物だ」

 ある日、私へ小さな荷物が届いた。差出人はお姉ちゃんだ。

 やっと助けを寄越したのね。まったく、愚図なんだから。

 中に入っていたのは映像記録用の魔導結晶だった。
 何か伝えたいことがあるのかしら?別に手紙でも構わないのに。


『勇者様!聖女様!ご結婚おめでとうございますー!』
 
 映像に移っていたのは、綺麗な白いドレスを着たお姉ちゃんとセドリック様だった。
 お姉ちゃんとセドリック様が結婚!?どういうことよ!

 私が驚いているうちに場面が変わって、今度はお姉ちゃんだけが映し出された。こちらを見てとっても嬉しそうな顔で笑っている。
 
『デイジー、見てるぅ~?私、今から王子様と結婚しまーす!』

 嘘よ。嘘に決まってるわ。
 セドリック様みたいなイケメン王子様と地味で可愛くないお姉ちゃんが結婚なんて、有り得ない。
 
 それは私がいるべき場所。
 王子様と結婚するのも、民衆から聖女として慕われるのも。
 優秀で可愛い私であるべきなのに。

 ずるいずるい!代わってよ、お姉ちゃん!
 
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