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5. 幸せな結末
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「勇者様まだかなあ」
「おい、押すなよ」「そっちこそ」
外から喧噪が聞こえてくる。
王宮前の広場に集まった民衆たちだ。皆きらきらとした眼をして、私達の登場を待ち望んでいる。
あれから、魔王は倒された。勇者セドリックの手によって。
アレンたちは魔王城へたどり着くこともできず、ボロボロになって帰ってきた。
妹はほとんど役に立たなかったらしい。
デイジーはその魔力量の多さ故に、魔力展開が雑なんだよね。
コスパの良い技を一生懸命学ぶ私や他の聖女候補を、彼女はバカにしていた。
ちょっとした怪我を治すのにも大がかりな技を使うもんだから、すぐに魔力切れを起こしてしまったのだろう。
しかも、お嬢様扱いに慣れた彼女に、旅はきつかったようだ。
やれ疲れただの足が痛いだのと言い出して全然進まないので、アレンや他の仲間たちと喧嘩になり、泣きながら飛び出していったらしい。
アレンたちはデイジーを置いて魔王城へ向かったが、聖女による治癒や強化が無い状態で大量の魔物に勝てるわけもなく。
ボッコボコにされ、命からがら逃げてきたそうだ。
その様子を見て、女神様もアレンに愛想を尽かしたんだろうね。
「新しい勇者としてセドリックを選ぶ」との神託が下ったのだ。
「側室腹で第三王子の俺を選ぶあたり、女神様も理解ってらっしゃるね」とセドリック様は笑っていたけれど。
セドリック様は執務能力だけでなく剣術にも秀でており、人望もある。勇者の資質は十分だと思う。少なくとも、アレンよりは遙かに。
彼の依頼で、私は新しい勇者パーティの聖女として加わった。他のメンバーも、セドリック様が配下の騎士や冒険者ギルドから吟味して選んだ優秀な者ばかり。
私達はセドリック様の指揮の元、一団となって戦い、魔王を倒したのだ。
「エステル、そろそろ時間だ。……っ」
控室へ入ってきたセドリック様が、私を見て言葉に詰まった。その頬が赤くなっている。
「セドリック様、どうなさったのですか?」
「……エステルが余りに美しいので驚いた」
「ふふっ。ありがとうございます。私にそんなことを仰って下さるのは、セドリック様だけですわ」
「そんなことはない。君は、自分の美しさを過少評価し過ぎだ」
「まあ……セドリック様こそ、礼服姿がとても凛々しくて見惚れてしまいました」
照れながら褒めあう私達を、着付けをしてくれた侍女さんたちがあらあらウフフという顔で眺めている。
今日はセドリック様と私の結婚式なのだ。
旅が終わって諸々が片づいた後、彼から求婚された。
最初は身分が違いすぎるからと断ったのだけれど、「苦難を共にして確信した。君が、俺の伴侶となるべき人だって。もし君に断られたら、俺はもう一生結婚しない」と強引に口説き落とされた。
結婚後、セドリック様は臣籍降下し、侯爵位と領地を賜ることになっている。
平民のままでは王族へ嫁ぐことは出来ないので、私はとある伯爵家の養女となった。教養は神殿である程度学んだけど、貴族夫人の教養や行儀作法とはまた違うんだね。
突貫で一から叩き込まれたのは辛かった……。
伯爵家へ入る時に、両親とは縁を切った。
二人ともなんか騒いでいたけど、知らな~い。
ちなみに、元勇者アレンは国王が定めた婚約を勝手に破棄した罪に問われ、罪人として鉱山の強制就労送りとなった。デイジーもそれを示唆したとして、仲良く鉱山送りだ。
国王陛下の命令をなんだと思ってたんだろうね、あの二人。
アレンは「婚約者だろ?助けてくれよお」と縋ってきたけど、知らな~い。元婚約者、だしね。
勇者パーティの仲間も鉱山送りこそ免れたが、国外追放となった。もう会うこともないだろう。
「勇者様!聖女様!ご結婚おめでとうございます!」
「お二人とも、なんとお美しい」
「お二人がいらっしゃる限り、この国は安泰だ!」
ファンファーレが鳴り響き、私達はバルコニーへと進んだ。
観衆は大喜びで、手を振る私達へ祝いの言葉を投げかけてくれる。
……この光景を魔導結晶に記録して、妹へ送りつけようか。
なんて考えてしまうあたり、私も性悪だ。
実はね。
最近流行っている映像送りつけ行為を妹へ教えたのは私なんだ。
私を貶めることを生き甲斐のようにしている彼女のことだから、乗ってくるだろうと思っていた。
あ、セドリック様にはきちんと話したよ?
やっぱりそうだったかと笑ってくれた。勇者に選ばれて傲慢に振る舞うようになったアレンと、修練をサボってばかりのデイジーには苦情が出ていたから、こっちも助かったって。
私は今までずっと、デイジーに奪われ続けてきた。
だから少しだけ、ほんの少しだけ仕返しをしたかったのだ。
ここまで上手く事が運ぶとは、予想してなかったけれど。
幸せいっぱいの私の姿を見せられたら、妹はどんな顔をするだろう。
最初の台詞はもちろんこうだ。
『デイジー、見てるぅ~?私、今から王子様と結婚しまーす!』
「おい、押すなよ」「そっちこそ」
外から喧噪が聞こえてくる。
王宮前の広場に集まった民衆たちだ。皆きらきらとした眼をして、私達の登場を待ち望んでいる。
あれから、魔王は倒された。勇者セドリックの手によって。
アレンたちは魔王城へたどり着くこともできず、ボロボロになって帰ってきた。
妹はほとんど役に立たなかったらしい。
デイジーはその魔力量の多さ故に、魔力展開が雑なんだよね。
コスパの良い技を一生懸命学ぶ私や他の聖女候補を、彼女はバカにしていた。
ちょっとした怪我を治すのにも大がかりな技を使うもんだから、すぐに魔力切れを起こしてしまったのだろう。
しかも、お嬢様扱いに慣れた彼女に、旅はきつかったようだ。
やれ疲れただの足が痛いだのと言い出して全然進まないので、アレンや他の仲間たちと喧嘩になり、泣きながら飛び出していったらしい。
アレンたちはデイジーを置いて魔王城へ向かったが、聖女による治癒や強化が無い状態で大量の魔物に勝てるわけもなく。
ボッコボコにされ、命からがら逃げてきたそうだ。
その様子を見て、女神様もアレンに愛想を尽かしたんだろうね。
「新しい勇者としてセドリックを選ぶ」との神託が下ったのだ。
「側室腹で第三王子の俺を選ぶあたり、女神様も理解ってらっしゃるね」とセドリック様は笑っていたけれど。
セドリック様は執務能力だけでなく剣術にも秀でており、人望もある。勇者の資質は十分だと思う。少なくとも、アレンよりは遙かに。
彼の依頼で、私は新しい勇者パーティの聖女として加わった。他のメンバーも、セドリック様が配下の騎士や冒険者ギルドから吟味して選んだ優秀な者ばかり。
私達はセドリック様の指揮の元、一団となって戦い、魔王を倒したのだ。
「エステル、そろそろ時間だ。……っ」
控室へ入ってきたセドリック様が、私を見て言葉に詰まった。その頬が赤くなっている。
「セドリック様、どうなさったのですか?」
「……エステルが余りに美しいので驚いた」
「ふふっ。ありがとうございます。私にそんなことを仰って下さるのは、セドリック様だけですわ」
「そんなことはない。君は、自分の美しさを過少評価し過ぎだ」
「まあ……セドリック様こそ、礼服姿がとても凛々しくて見惚れてしまいました」
照れながら褒めあう私達を、着付けをしてくれた侍女さんたちがあらあらウフフという顔で眺めている。
今日はセドリック様と私の結婚式なのだ。
旅が終わって諸々が片づいた後、彼から求婚された。
最初は身分が違いすぎるからと断ったのだけれど、「苦難を共にして確信した。君が、俺の伴侶となるべき人だって。もし君に断られたら、俺はもう一生結婚しない」と強引に口説き落とされた。
結婚後、セドリック様は臣籍降下し、侯爵位と領地を賜ることになっている。
平民のままでは王族へ嫁ぐことは出来ないので、私はとある伯爵家の養女となった。教養は神殿である程度学んだけど、貴族夫人の教養や行儀作法とはまた違うんだね。
突貫で一から叩き込まれたのは辛かった……。
伯爵家へ入る時に、両親とは縁を切った。
二人ともなんか騒いでいたけど、知らな~い。
ちなみに、元勇者アレンは国王が定めた婚約を勝手に破棄した罪に問われ、罪人として鉱山の強制就労送りとなった。デイジーもそれを示唆したとして、仲良く鉱山送りだ。
国王陛下の命令をなんだと思ってたんだろうね、あの二人。
アレンは「婚約者だろ?助けてくれよお」と縋ってきたけど、知らな~い。元婚約者、だしね。
勇者パーティの仲間も鉱山送りこそ免れたが、国外追放となった。もう会うこともないだろう。
「勇者様!聖女様!ご結婚おめでとうございます!」
「お二人とも、なんとお美しい」
「お二人がいらっしゃる限り、この国は安泰だ!」
ファンファーレが鳴り響き、私達はバルコニーへと進んだ。
観衆は大喜びで、手を振る私達へ祝いの言葉を投げかけてくれる。
……この光景を魔導結晶に記録して、妹へ送りつけようか。
なんて考えてしまうあたり、私も性悪だ。
実はね。
最近流行っている映像送りつけ行為を妹へ教えたのは私なんだ。
私を貶めることを生き甲斐のようにしている彼女のことだから、乗ってくるだろうと思っていた。
あ、セドリック様にはきちんと話したよ?
やっぱりそうだったかと笑ってくれた。勇者に選ばれて傲慢に振る舞うようになったアレンと、修練をサボってばかりのデイジーには苦情が出ていたから、こっちも助かったって。
私は今までずっと、デイジーに奪われ続けてきた。
だから少しだけ、ほんの少しだけ仕返しをしたかったのだ。
ここまで上手く事が運ぶとは、予想してなかったけれど。
幸せいっぱいの私の姿を見せられたら、妹はどんな顔をするだろう。
最初の台詞はもちろんこうだ。
『デイジー、見てるぅ~?私、今から王子様と結婚しまーす!』
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