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3. 愚かな両親たち
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「いい加減にしてくれないか?見苦しい」
冷静ではあるが怒りを滲ませたセドリック殿下の声に、騒いでいた両親たちはぴたりと黙った。
第三王子セドリック殿下。
殿下の御母君は側妃で、かつ第三王子ということもあり、王位継承からは程遠いと言われている方だ。だがその優秀さにより、貴族たちからも一目置かれているらしい。
彼は魔王軍対策本部の長に就いており、私たち勇者パーティへの支援や援軍の配置などを一手に引き受けている。その縁で、アレンや私は何かと殿下へお目に掛かる機会が多かったのだ。
「筋違いの怒りを聖女エステルへぶつけるのはやめろ。それに、ウェイド夫妻。お前たちは、それでもエステルの親か?彼女は婚約者や仲間たちに裏切られたのだぞ。しかも、実の妹のせいで。傷ついた彼女へ寄り添うどころか責め立てるとは……とてもまともな親の所業とは思えない」
「エステルは図太いから、そんな心配は要りませんよ。なあ、エステル?」
「姉の婚約者と不貞をした上に、こんな映像を送ってくる女の方がどう考えても図太いと思うが」
全くの正論である。
ぐうの音も出ない父が縋るように私を見たが、知らぬふりをした。
「勇者アレンもだ。陛下が命じた婚約を勝手に破棄するとは、国家に対する背信行為だぞ」
「それは、エステルさんに魅力がないから……。うちの息子は常々不満を持っていたのです」
「婚約者に魅力があろうがなかろうが、不貞をして良い理由にはならない。もっとも、俺はエステルに魅力が無いとはこれっぽっちも思ってないが」
アレンの母親が反論したが、殿下から一刀両断にされていた。
彼女は元々、私が気にいらなかったらしいからね。会う度にちくちくと嫌みを言われていた。
私がというより、大事な息子ちゃんに嫁なんて!って感じだったのかも。彼らもアレンのことを溺愛していたから。
あと殿下、お世辞とはいえ褒めてくれてありがとう。ちょっと嬉しい。
「しかしですな。デイジーの言によれば、エステルは聖女の立場を不当に得たそうではないですか。不貞をしたデイジーは勿論ですが、聖女エステルにも非があるのでは?」
「そうです!それに、エステルは普段からデイジーへ辛く当たっていたと聞いています。彼女にも何らかの罰を与えるべきです!」
静観していたローラット男爵と、令息チェスター様が口を開いた。
デイジーは普段から、あれこれと私の悪口を婚約者へ吹き込んでいたらしい。チェスター様はそれを信じて、いつも私に「妹を虐めるのはよせ」と文句を言っていた。
「それは全て、デイジーの虚言だ」
「うちのデイジーはそんな娘じゃありません!」
「殿下、そのような根拠のないお言葉は如何なものかと」
「根拠?幾らでもある。デイジーは聖女候補としての努めを怠り、他の者へ仕事を押しつけていた。地方での奉仕作業に彼女が出向かなかったことは記録に残っているし、司教や聖女候補たちからも証言を得ている。疑うなら、神殿へ聞いてみるがいい。それに対し、エステルは真っ当に努めを果たし、修練へも真摯に向き合っていた。彼女は妹を含む他の聖女候補たちに対して、常に礼儀正しい態度で接していたと司教からの報告には記載されている。どちらが聖女に相応しいのか、一目瞭然だろう」
聖女候補は修行の一環として、貧しい民へ治療行為を施すという無料奉仕が課せられている。
だけどデイジーは頻繁に「今日は体調が悪いの~」と奉仕をサボっていた。
もちろん仮病だ。「わざわざ田舎まで出向いて、貧乏人の相手なんてしてらんないわ。お姉ちゃんあとはよろしく~」とゴロゴロしながらほざいていたもの。
妹が休んだ分、私や他の聖女候補の仕事が増える。そのため、聖女候補たちからのデイジーに対する評判は最悪なのだ。
聖女候補を指導する司教様たちにも、その悪評は届いている。当然、彼らを統括する大司教様にも。
私が聖女に選ばれたのには、きちんとした理由があるのだ。
両親は「そんな……」と絶句しているし、チェスター様は「嘘だっ……」と呟いている。
両親はともかく、婚約者の前でデイジーは猫をかぶっていたからね。あんな映像を見せられても、まだ彼女を信じたいらしい。
「チェスター。婚約者の言葉を信じたいのは分かるが、貴族ならば何事も裏をとるべきだったのではないか?ローラット男爵もだ。不如意に過ぎるぞ」
「……申し開きもございません」
「聖女エステルに対する暴言についても、詫びを入れよ」
ローラット男爵親子は渋々「聖女エステルへの非礼、お詫びする」と私へ頭を下げた。
ここは自分たちが不利と判断したのだろう。
殿下にギロリと睨まれたブリック夫妻も慌てて頭を下げたが、両親は最後まで私に謝らなかった。
冷静ではあるが怒りを滲ませたセドリック殿下の声に、騒いでいた両親たちはぴたりと黙った。
第三王子セドリック殿下。
殿下の御母君は側妃で、かつ第三王子ということもあり、王位継承からは程遠いと言われている方だ。だがその優秀さにより、貴族たちからも一目置かれているらしい。
彼は魔王軍対策本部の長に就いており、私たち勇者パーティへの支援や援軍の配置などを一手に引き受けている。その縁で、アレンや私は何かと殿下へお目に掛かる機会が多かったのだ。
「筋違いの怒りを聖女エステルへぶつけるのはやめろ。それに、ウェイド夫妻。お前たちは、それでもエステルの親か?彼女は婚約者や仲間たちに裏切られたのだぞ。しかも、実の妹のせいで。傷ついた彼女へ寄り添うどころか責め立てるとは……とてもまともな親の所業とは思えない」
「エステルは図太いから、そんな心配は要りませんよ。なあ、エステル?」
「姉の婚約者と不貞をした上に、こんな映像を送ってくる女の方がどう考えても図太いと思うが」
全くの正論である。
ぐうの音も出ない父が縋るように私を見たが、知らぬふりをした。
「勇者アレンもだ。陛下が命じた婚約を勝手に破棄するとは、国家に対する背信行為だぞ」
「それは、エステルさんに魅力がないから……。うちの息子は常々不満を持っていたのです」
「婚約者に魅力があろうがなかろうが、不貞をして良い理由にはならない。もっとも、俺はエステルに魅力が無いとはこれっぽっちも思ってないが」
アレンの母親が反論したが、殿下から一刀両断にされていた。
彼女は元々、私が気にいらなかったらしいからね。会う度にちくちくと嫌みを言われていた。
私がというより、大事な息子ちゃんに嫁なんて!って感じだったのかも。彼らもアレンのことを溺愛していたから。
あと殿下、お世辞とはいえ褒めてくれてありがとう。ちょっと嬉しい。
「しかしですな。デイジーの言によれば、エステルは聖女の立場を不当に得たそうではないですか。不貞をしたデイジーは勿論ですが、聖女エステルにも非があるのでは?」
「そうです!それに、エステルは普段からデイジーへ辛く当たっていたと聞いています。彼女にも何らかの罰を与えるべきです!」
静観していたローラット男爵と、令息チェスター様が口を開いた。
デイジーは普段から、あれこれと私の悪口を婚約者へ吹き込んでいたらしい。チェスター様はそれを信じて、いつも私に「妹を虐めるのはよせ」と文句を言っていた。
「それは全て、デイジーの虚言だ」
「うちのデイジーはそんな娘じゃありません!」
「殿下、そのような根拠のないお言葉は如何なものかと」
「根拠?幾らでもある。デイジーは聖女候補としての努めを怠り、他の者へ仕事を押しつけていた。地方での奉仕作業に彼女が出向かなかったことは記録に残っているし、司教や聖女候補たちからも証言を得ている。疑うなら、神殿へ聞いてみるがいい。それに対し、エステルは真っ当に努めを果たし、修練へも真摯に向き合っていた。彼女は妹を含む他の聖女候補たちに対して、常に礼儀正しい態度で接していたと司教からの報告には記載されている。どちらが聖女に相応しいのか、一目瞭然だろう」
聖女候補は修行の一環として、貧しい民へ治療行為を施すという無料奉仕が課せられている。
だけどデイジーは頻繁に「今日は体調が悪いの~」と奉仕をサボっていた。
もちろん仮病だ。「わざわざ田舎まで出向いて、貧乏人の相手なんてしてらんないわ。お姉ちゃんあとはよろしく~」とゴロゴロしながらほざいていたもの。
妹が休んだ分、私や他の聖女候補の仕事が増える。そのため、聖女候補たちからのデイジーに対する評判は最悪なのだ。
聖女候補を指導する司教様たちにも、その悪評は届いている。当然、彼らを統括する大司教様にも。
私が聖女に選ばれたのには、きちんとした理由があるのだ。
両親は「そんな……」と絶句しているし、チェスター様は「嘘だっ……」と呟いている。
両親はともかく、婚約者の前でデイジーは猫をかぶっていたからね。あんな映像を見せられても、まだ彼女を信じたいらしい。
「チェスター。婚約者の言葉を信じたいのは分かるが、貴族ならば何事も裏をとるべきだったのではないか?ローラット男爵もだ。不如意に過ぎるぞ」
「……申し開きもございません」
「聖女エステルに対する暴言についても、詫びを入れよ」
ローラット男爵親子は渋々「聖女エステルへの非礼、お詫びする」と私へ頭を下げた。
ここは自分たちが不利と判断したのだろう。
殿下にギロリと睨まれたブリック夫妻も慌てて頭を下げたが、両親は最後まで私に謝らなかった。
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