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終わりのはじまり

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 スプリングが二人の分の体重を乗せてギシギシと軋む。私はベッドの上に仰向けで縫い付けられ、兄に馬乗りにされたまま秘芯に赤黒く腫れたペニスを受け入れていた。

「やぁあッ!もうイくのいやなのぉっっ!あっあっ!太いの奥まできてるッッ!あ、あんッ……!あぁあっ!!?ひぃんっ!!」
「つれないねぇ、久々の再会だってのに……俺はずっと楽しみにしてたんだぜ?お前の可愛いここに自分のをぶち込む瞬間をよ……。ほんっとに可愛いなお前は。おらっ、気狂うまでイかせてやっからな!」
「あっ!……あぁんっっ!やぁッ!」

 何度も繰り返し中を擦られたせいで、慎ましやかだったそこは淫らな雌穴と化し、長らく拓かれることのなかった膣肉はすっかりペニスの虜になっていた。逞しい雄に蹂躙され、熟れた肉襞がねだるようにペニスに絡みつく。三度ほど中に注がれたせいで、ペニスが雌穴に潜り込むたび、白濁が結合部からあふれ、尻穴を濡らす。

「あっ……っっ!もぉらめっっ!抜いてよぉっ!もう中に出すのらめぇッッ!」
「ハッ、中にかけられて即イキしてたくせによく言うぜ。孕むまで出すから覚悟しとけよ……!美伽 、お前は今日から俺と暮らすんだよ、毎日ここに俺のを受け入れてな……!他には何も心配ねぇ、何が襲いかかってこようが俺が守ってやる。だから観念して俺の女になるんだな。」
「だめっ!兄妹でこんなことしちゃだめなのッッッ!お兄ちゃんのなんかでイきたくないッ……!もうこれ以上らめぇ……ッ!」
「は~……るっせぇなあ……」

 心底鬱陶しそうに目をすがめながら髪をかきあげると、兄はぎろりと私を睨んだ。それは獰猛な獣を彷彿とさせる鋭い視線で、私は思わずぐっと息を詰めた。その瞬間、兄は酷薄な笑みを浮かべると、真上から体重をかけるように、ぐっとペニスを押し込んだ。先端がありえないところまで入り込んで、極太のペニスにたっぷりと躾けられた子宮口が耐えられるわけなかった。瞼の裏がチカチカと光り、私は情けない喘ぎ声を漏らして、潮を吹きながら絶頂に達してしまう。ビクビクと全身を跳ねさせ意識を飛ばしかけた私をそれはそれは興奮まじりの目で見つめながら、兄は言った。

「こんな世界になっちまった以上よぉ、もうお前には俺しかいねぇだろうが」






 何の変哲もない一日だった。そう、今朝までは。
 今日は大学は午後からだったため、アルバイトを午前中に入れていた。部屋で身支度をしていると、ふとスマホにメッセージの通知が届く。
 開いてみたが、ショートメッセージのようで知らない番号からだった。内容は一言、『今日は危険だから外へ出るな』簡潔にそれだけが書かれていた。
 差出人もわからない上に意図の不明なメッセージに不気味さを感じ、何となく胸騒ぎがしたが、バイトはもうシフトを届けてあるし、今さら行かない選択肢なんてない。いたずらか何かだろうと結論づけて、私はバイト先の近所のコンビニへ向かった。



「清水さんごめん、レジの小銭なかったからさ、銀行で両替してくるわ。それまで店お願い」
 
 着くなりレジに立っていた店長は慌てた様子でそう言うと、早足で店から出て行った。店長が帰ってくるまでは一人だが、まぁ問題はないだろう。無人の店内を見まわしため息をつく。この店舗は大通りから少し外れたところにあるのと、近くにもっと大手で違う系列のコンビニがあるのもあって、あまり客の入りは良くなかった。おそらく暇だ。
 掃除でもしてようかなと考えつつ、私はバックヤードに着替えに行った。


 
 あれから2時間ちょっと経つが、店長が帰ってこない。私はレジカウンターの前で手持ち無沙汰に立ち尽くしていた。道中何かあったのだろうか?このまま帰ってこないと困る、午後から大学なんだけど。開くことのないドアをじっと見つめていると、ふと外の様子に違和感を覚えた。
 かすかに、遠くからだろうが、唸るようなサイレンの音が聞こえる。消防車か何かの音だと思っていたが、何か違うような。どちらかというと地震や急襲を受けた時の非常時のアラームのような音に近い。そして、不気味なくらい外は静けさに満ち、住宅街で人通りはまばらだかこの時間帯ならいつも人が歩いているというのに、今日は人っ子一人見ない。
――『今日は危険だから外へ出るな』
 あのメッセージが頭をよぎり、私は身をこわばらせた。いや、ただのいたずらだろう、何ともないはずだ。嫌な考えを振り払った時だった、窓越しに、駐車場のど真ん中に人影を見つけた。いつからそこにいたのだろう?よく目を凝らすと、おそらく年配の女性で、地面に這いつくばるようにしてうずくまっている。まさか体調が悪くて倒れているのだろうか?私は恐る恐るドアを押し開け、外に出ると女性に近づく。

「あの、大丈夫ですか……」

 声をかけた時だった、うぅ、ととても人から出るとは思えないような唸り声がして、それが目の前の女性が発したものだと分かるまでに少々時間がかかった。何だかただならぬ雰囲気を感じ、思わず私はゆっくりと後ずさり彼女から距離をとった。女性は緩慢な動作で振り向くと、顔を上げた。
 瞳孔が開き白く濁った目、乾いた肌は血の気のない土色をしていて。まるで、死人みたいだ。動けもせず固まっていた時、焦点の合わなかった目が私をとらえると、突如その瞳にぎらついた光が見えて、女は唸り声をあげながら私に飛びかかってきた。
 人よりも瞬発力が優れていたことに、この日ほど感謝したことはない。間一髪のところで私は飛び退くと、全速力で店のドアを開け中に身を滑り込ませ、勢いよくバン!とドアを閉めた。女は鈍い動作のまま地面に突っ伏しアスファルトを指で引っ掻いていて、私は脇目も振らずパイプ椅子やら傘立てやら何やらでドアを塞ぎ、バリケードを作るとバックヤードに駆け込んだ。

 しばらくの間、呆然と座り込むしかできなかった。何なんだあれは。一体どういうことなんだ。震える手でスマートフォンを開くと、通知が何十件も溜まっていた。直近のメッセージは1時間前、母からだ。『大丈夫なの?早く避難所に行きなさい』とだけ。いつも絵文字が多いと言うのに、慌てて打ったみたいに簡素で短いメッセージに違和感を感じる。
 一体何が起きている?おそるおそるバックヤードに置かれたテレビをつけ、ぐっと音量をしぼる。
 そして、飛び込んできた映像に私は息を呑んだ。大通りを、土色の肌をした死人のような顔つきの人間がうろうろと歩き回っている。先ほどの女と一緒だ。地面に這いつくばる者から人が立てこもった車両に群がる者、どう見ても生きた人間じゃない。昔映画で見た、B級のゾンビ映画か何かと思った。とても現実とは思えないような映像が次から次へと流れ、思わず乾いた笑いすら漏れる。
『現在、正体不明のウイルスが全国で蔓延しており、感染者の数は把握できておりません。感染すると脳がウイルスに侵され、意思疎通が困難になり、暴れるなどの症状が見られています。また、感染者に噛みつかれることにより感染することが分かっていますので、現時点で感染していない方は、外には出ず建物内で待機し、救助をお待ちください。』
 緊迫した様子でニュースキャスターはそう繰り返すばかりだった。

 私は不安に手のひらを握りしめて恐怖に耐える。この様子だと外にはあの、ゾンビみたいなのがたくさんうろついているんじゃないか。キャスターが言っていたようにここで立てこもって待機するのが得策だろう。けれど、いつまでもつ?ぞわぞわと寒気が背筋を這っていく。ここがコンビニなのが幸いして、食料など必要最低限のものもトイレもある。けれど、いつ停電してもおかしくはないし、逆に生きている人間がこの混乱に乗じて強盗目的で押し入る可能性もある。女一人でこんなところに閉じこもっているのもどちらにせよ危険だった。
 けれど外に出るわけにもいかず、私は身動きが取れぬまま机の下で震えているしかなかったのだ。
 どのくらい時間が経ったろう。もう日は翳っていて、極度の緊張が続いたのと疲れが溜まったので、ややうとうとしかけていた頃。突然大きな物音がして身を跳ねさせる。どうやら店のドアを蹴るか何かしてバリケードを破ろうとしているようだった。私は恐怖にろくに呼吸もできず、喉は張りついてかひゅ、と情けない声を漏らすことくらいしかできなかった。逃げなきゃ。けどどうやって?息を殺してじっと身動きを取らず隠れたままでいると、バン、と一際大きな音がして、バリケードを築いていた椅子やら何やらが崩れ落ち、ドアが開く音がする。客の入店を知らせる聞き慣れた音を、こんなに絶望に満ちた気分で聞くことになるとは思ったこともなかった。

 しばらくして無遠慮な足音が店の中に響き渡る。重たくごつい足音と歩幅が大きそうなことからして、おそらく体格のいい男だ。しかも、うろうろとさまようでもなく意思を持って歩いていそうな感じからして、生きた人間。
 男が手前の陳列棚をあさる音を聞きながら、終わった。本当に終わった。と私は色をなくした唇を噛んでいた。そしてその足音は、何の迷いもなくレジの方へと近づき。
 絶対に強盗だ。店の中の食料を根こそぎ持って行かれて、もしも見つかったら私、殺されるんだ。そう諦めすら抱いた瞬間だった。

「おーい店員さん、会計頼める?水と缶詰欲しくてさぁ」

 明確にバックヤードにいる私に向けられた声に、びくりと身をこわばらせる。私がいること、バレてる。
 私はしばらくの間動けなかった。生きた人間なのは間違いないが、まだ強盗の線も消えてはいない。若い女がいると気付いて暴行されてから殺される可能性だってあるし、この男を信用していいかものすごく迷った。
 じっと黙っていたが、私からの返事がないことにも特に焦れた様子は見せず、男はじっと黙って待っている。
 私は賭けに出た。ここに一人で立てこもっていても助かる見込みは薄いのだ。もしもこの男がまともな人間だった場合、命くらいは繋げるかもしれない。一人より二人の方が生存確率が高いに決まっている。

 覚悟を決めて、私はレジへと出た。だが、ようやく正面から顔を見たその男を前にして、一瞬にして血の気が引く。
 強盗やゾンビの方がまだマシだった。生きているうちに二度と会いたくないと思っていた男が、目の前に立っていた。

「よぉ、久しぶりだな。元気してたか?」

 やや垂れ目がちの瞳に通った鼻筋、厚ぼったい唇。甘いマスクとはこういうのを言うんだろう、と思うような色気のある顔。記憶と変わらず、そのあたりの女が放っておかないような魅惑的な容姿をしていたが、私はもうその顔を見て恐怖しか感じない。私は反射的に後ずさってまたバックヤードの方に戻ろうとしたが、彼が私の腕を掴む方が早かった。

「おいおい……素っ気ねぇなぁ、挨拶くらいしてくれたっていいだろ。5年ぶりか?兄貴との感動的な再会だってのに」

 兄は――武彦は、不満げにそう口を尖らせると、私の腕を掴んで袖をまくったり、顎を掴んで首筋を検分したりして、「噛まれてはねぇな」と呟く。感情の見えにくいその目に、分かりにくくも安堵が滲んだ気がした。

「美伽、メッセージちゃんと見たか?今日送ったろ。家から出るなって」
「えっ……あれ、お兄ちゃん、が」
「おう。お前メッセージアプリもブロックしてんだろ、だから仕方なくな。お前の高校の頃の友達にツテたどって番号聞いたぜ、おふくろも親父も可愛い妹の番号教えてくんねぇんだもん。ったく、寄ってたかって俺を悪者にしやがって。」

 悪態をつきつつも、大して気にもしてなさそうな顔で、兄は薄く笑った。その悪びれもしない態度に怒りが込み上げてくる。そもそもなぜ兄との連絡を拒んでいたのか、忘れているわけではないだろう。
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