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第四章 温泉でDになろう

第九話 転ばぬ先の杖…じゃなく折れた先が棍棒…ですよね…

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結局翌朝。
 前の日に盛り上がりすぎて・・・お開きになった時にはすでに午前様だった。
なので朝まで仮眠してから出発することになったのだ。
やり過ぎだった。

 「ふわああ…」

 最初に集合場所に来たのは私だった。

 「うぅ、さむ…」

 暑い時期とはいえやっぱり朝は肌寒い。ビキニアーマーはこういう時にキツいなあ。
やめる気は更々ないけど。

 「おぉ、はやいのう…サーチじゃったな?」

 中国の仙人が持ってそうな杖を引きずりながらサーシャンが来た。
…なんで背よりも高い杖なんだろう?

 「…なんじゃ?」

 「いえなんでも」

しばらくするとエイミアとリルも出てきた。これで全員ね。

 「おはようございます~あ、マーシャン変わった杖ですね」

 「こ、こりゃエイミア。いきなり触るでない」

 「大丈夫ですよ」

 「いや、大丈夫ではないのじゃ!触るでない!あ!あ!」

ぽきんっ

「え”」

 「にょおおおお!」

 折れた。
まあ、あんだけひょろひょろの杖じゃ折れるわな…。

 「あー!あー!!あー…びえええっ」

ああ、泣いちゃった。
エイミア…責任とりなさいよ。

 「え?え?ご、ごめんなさい…びえええっ」

あんたまで泣くな!
あーもう!収拾がつかない!
ていうかまた予定が狂うじゃない。ダンジョンいつになったら行けるのよー!


 「落ち着いた?二人とも」

 「す、すまぬ」

 「ごめんなさい…」

 二人そろって目が真っ赤だ。

 「マーシャンはまだ泣いた理由がわからなく」

 「いーや!お主らにはわからぬ!わかってたまるか!」

いきなり割り込んでくるマーシャン。なんなのよ一体…。

 「あの杖はなあ…あの杖はなあ…」 

 拳を震わせて話すマーシャン。

 「…長老樹の杖じゃぞ!」

 「…なにそれ?」
 「…はあ…」
 「………」

…三人揃って知りません。リルだけ反応おかしいけど。
あ、マーシャンが本気で泣き始めた。

 「うう…無念じゃ…無念すぎる…びえええっ」

あー…今日は出発無理かな。

 「リルー。予定延ばすー?」

 「…」

 「リルー?…なんでアゴはずしてるの?」

 何故かリルが口を開いたまま真っ青になって震えていた。

 「ち、ち、長老樹…」

…?
 長老樹がどうかしたのだろうか?

 「どういうこと?」

 「たぶん…たぶんなんだが…賢者の杖マスターロッドになりかかってたかと…」

…。
…。
…思い出した。
 長老樹って…賢者の杖マスターロッドの材料…。

 「う、嘘…」

 今度は私のアゴが外れた。

 「「…エイミア…あんた何て事を…」」

 「え…な、何かスゴく大変なことしちゃった…?」

こくこく。
 私とリルが激しく頷いた。

賢者の杖マスターロッド
 前世でいうところのエクスカリバー並みの名声がある伝説の武器だ。
ちょっと前に話した大陸戦争。それを終わらせたのがたった一人の魔術士だった。
その魔術士が使っていた杖が賢者の杖マスターロッドである。
 無限に湧き出る魔力を惜しみなく持ち主に与え続ける効果を持つ賢者の杖マスターロッドは世の魔術士にとっては憧れの的。皆が手に入れたいと躍起になっているのも無理はない。
この伝説の杖。実は製造方法は判明しているのだ。
それが長老樹と呼ばれる希少な木から造った長い長い杖に己の魔力を流し込み続けること…なのだ。
 次第に持ち主の魔力を取り込んでいき、だんだんと短くなる。そして持ち主と同じ長さまで短くなったとき…杖が完成するのだ。
もちろん簡単ではない。
 長老樹には弱点が多い。

 一、長老樹は非常に脆い材質なのですぐ折れる。
 二、持ち主と違う魔力が触れると材質が硬化してダメになる。
 三、10分以上離すと枯れる…エトセトラエトセトラ。
 結論、超めんどくさい。

 「…これ…長さ的に言っても…」

 「もうちょっとだな…」

…たぶん…何十年とかかったと思う。
そんな苦労の結晶を…エイミアが…。

 「…エイミア…」

…そりゃ泣くわ…。

 「……マーシャン……ホントに…ごめんなさい…」

 「まあよい」 

おい!
ずいぶんアッサリと許したな!さっき泣いてたの誰だよ!

 「え…でも…」

 「気にするでない。なんとなく二本目・・・造ってただけうきゅ」

リルの踵がめり込んだ。

 「もう一本あるんかい!一本あるんならもう必要ないだろ!」

 「何を言うか!賢者の杖マスターロッド二刀流は女のロマンじゃ!」

 「そ…そんなロマン知りません!私の涙返してー!!」

エイミアは転がっていた杖の先で殴りつけた。

どがあああん!

 「あ、あれ?」

マーシャンが跡形も無くめり込んだ・・・・・


 「むむ…これは…」

めり込んだマーシャンを引っこ抜いた後。
でっかいたんこぶを擦りながらマーシャンはずっと折れた杖の先を観察しているのだ。

 「ワシの魔力とエイミアの魔力の相性が良かったのじゃな…完成された硬化は初めて見る」

 「あの…どうなったんですか?それ」 

エイミアが恐る恐る尋ねた。

 「うむ。この長老樹は魔力が完全に結びついておる。下手な金属より硬いじゃろうな」

 「下手な金属よりって…鋼鉄よりも?」

 「いや…ミスリル並みじゃな」

はいいいいっ!? 


こうして。
エイミアの最強武器ができた。

 名前は…“未完の棍棒”アンコンプメイスってことで…。

…偶然は恐ろしい…。
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