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第十七章 原点回帰でキビCんです!

第一話 またまた氷河の城壁《アイスキャッスル》へ! そこにはリアルハロウィンを楽しむモンスターがいた!? ですよね…

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「……よし、準備OK!」

 消耗品の点検を終えてビキニアーマーを装備した私は、隣のベッドで寝ていたヴィーを起こす。

「ヴィー、そろそろ起きなさい。出発の準備をして」

「…………」

「ヴィー、起きろっての」

「…………」

 時間もないし……。

「ふぅーっ」

「あひゃああああああ! ……ってぅわ!」

 どすーん! ずでーん! ばたーん!

 あらら。飛び起きたと思ったら、ハデにベッドから落ちたわねえ……。

「い、痛たた……な、何事ですか? 耳に異様な感触が……?」

「おはよ、ヴィー」

「あ、おはようございます……一体何が起きたのですか?」

「ん? あまりにも起きてこなかったから、耳にふぅーってやったの」

「止めてください! 私が耳弱いの知ってますよね!?」

「ええ、知ってるわよ。よーく・・・

「っ……!!」

「だから目覚ましには抜群じゃないのよ……ほら、さっさと起きて。私が戻ってくるまでには準備しときなさいよ」

「は、はい……」

 そう言って私は部屋を出た。どうせまだ寝てるに決まってる、残りのパーティメンバーを叩き起こすために。


「「「…………」」」

 ……全員、黙々と朝ご飯を食べている。私とヴィー以外はムスッとしている状態だ。

「……どうしたのですか、皆。何時もなら騒がしいくらいですのに……」

 私とヴィー以外の3人は、恨めしそうに私を睨んだ。

「……何よ」

「お前さあ……もうちょっと起こし方ってもんがあるだろ……」
「確かになかなか起きない私達も、悪いとは思いますけど……」
「流石に今回の起こし方には抗議する」

「……皆はどのような起こされ方を……?」

「……口と鼻に水を流しこまれた……。で、耳元で『川に落ちた』って連呼された……」
「腕と足の関節に激痛が走ったと思ったら、サーチが私の背後に回り込んで抱え上げてました」
「……ずーっと耳元で『聖言』を呟かれた……」

 ヴィーは心底複雑な表情をして、私に振り返った。

「……何故リルに無理矢理、水を飲ませたのですか?」 

「普通に起こしたら引っ掻いてきたから、イラッとしてつい……」

 私は引っ掛かれた二の腕の傷を見せる。

「……ではエイミアには何故、関節技を?」

「普通に起こしたらビリッときたから、イラッとしてつい……あ、技名はロメロスペシャルだからね」

 そう言って私は火傷した右手を見せる。

「……ではリジーには何故、『聖言』を?」

「普通に起こしたら、リジーの服から黒い手が伸びてきたから、命の危険を感じてつい……」

 黒い手に掴まれた右手を見せる。黒々と呪いの傷がついていた。
 それらの私の傷を|≪回復≫《リカバリー》で治しながら、ヴィーはジト目で3人に。

「……自業自得じゃないですか」

 ……と、言い放ち。
 3人は「「「……ごもっともです……」」」とうなだれた。

「ヴィーありがと……そう思うんだったら、自分でちゃんと起きなさいよ」

「「「……はい」」」

「本当にお願いしますよ。サーチにこんなに傷をつけるなんて……」

「あのね、ヴィーもよ。私のベッドに忍び込んだりする暇があったら、早く寝なさいね」

「わわわかりましたから! そ、それは言わないで下さい!」

 ……これでちゃんと起きてくれるようになればいいんだけど。


「……さて。昨日の会議通り“八つの絶望”ディスペア・オブ・エイトを回るわけなんだけど……最初はどこにする? 私は一番近い氷河の城壁アイスキャッスルから、と思ってるんだけど……」

「……そうだな。どうせ行かなきゃならないんだし……」

「攻略したばかりですから、ダンジョンも熟知してますしね。私は賛成です」

 エイミアもリジーも頷く。異議はないらしい。

「じゃあ氷河の城壁アイスキャッスルに行くってことで。ここならソレイユにも負担かからないし……今日は休んでていーわよーー!」

 私は奥のテーブルで突っ伏している、ソレイユに声をかけた。


     『……はーい……』     


 普段を知っていると信じられないような、か細い声でソレイユは答えた。

「……魔王様が酔い潰れるなんて……どういう飲み方をしていたのでしょうか?」

「んなもん、サーチと飲み比べたに決まってんじゃねえか」

「魔王様、とっても愚か。サーチ姉に勝てるわけがない」

「ゴブリンがドラゴンに挑むより、勝率は低いですよね……」

 ヴィーがバケモノを見るような目で、私をガン見してきた。

「……何よ」

「……サーチってどれだけお酒に強いんですか? 魔王様はオークキング100匹を酔い潰すほどの酒豪なのに……」

「へ? 知らないの? ……ああ、そっか。毎回ヴィーは、はっちゃけて潰れるんだっけ……」

「そ、その事はいいですから!」

「あーはいはい……私はお酒飲んでも酔わないのよ。もしかしたら≪毒耐性≫の影響かな?」

 まさか「前世でも強かった」とは言えないし。

「そうなんですか……私も頑張らないと」

「? ……何をがんばるの?」

「え? そ、それは……晩酌に付き合えるくらいには……ゴニョゴニョ」

 ……またトリップしないでよ。


 案の定トリップして妄想状態になったヴィーを引き摺って、私達は氷河の城壁アイスキャッスルへと向かった。

「さすがにダンジョンが復活するには早いよな?」

「大丈夫だと思うよ。前回、あれだけ徹底的に木っ端微塵にしてきたんだから」

 念のために炸裂弾と焼夷弾は準備してきたけど……ヴィーが現実に回帰しないと難しい。

「これだけ暖かいんですから、大丈夫ですよ」

 ……ま、エイミアの言う通りかな。実際、七冠の魔狼ディアボロスが去ってからは毎日晴れている。

「……んん……そうとも言えないと思われ」

 氷河の城壁アイスキャッスルの方角を注視していたリジーが呟いた。

「え? まさかダンジョンが復活してるとか?」

「違う。モンスターがいっぱい」

 ……は?


『急げ! 早くダンジョンを再建するのじゃ!』

 ……あらら。
 氷の真竜マスタードラゴン自ら指揮を執って、氷のモンスター総動員でダンジョン建設中だったんだ。リアルなハロウィンになってる。

 キシャアア!

『なぬ? こちらに冒険者のパーティが向かっている? 適当に蹴散らしておけ』

 ……私達のことか。妙にモンスターが襲ってくるなあ、とは思ってたけど……。

「どうします? このままだと入りにくくなる一方ですよ~……」

 氷の真竜マスタードラゴンには申し訳ないけど……やりますか。

「ヴィー、正気に戻った?」

「戻りましたよ! そりゃ背中に氷を入れられれば、誰だって正気に戻りますよ!」

 結果オーライ。

「また焼夷弾をよろしく」

「ええ!? またやるのですか!? ……目が回るから嫌なんですけど……仕方ありませんね……」

 ブツブツ言いながらも頭の蛇に焼夷弾をくわえさせるヴィー。ありがとね。

「じゃあ……行くわよ!」


『急げえ! 冬が終わってしまうぞ……ん?』

 ひゅううん……
 ひゅうひゅうひゅううん……

『何の音じゃ?』

 ガチャン! パリンパリィン!

『何じゃ、何が飛んできて………ん? この匂いは……油?』

 ひゅううん……
 ひゅうひゅうひゅううん…

『ま、まさか……またなのか!?』

 どんっ!
 どんどんずどおおん!
 どっがあああああああああんっっ!!

『のおおおおおおおおおっ!!』


 無事にダンジョンの大破壊が終わり、私達が入っていくと。
 そこには、死屍累々と横たわる氷のモンスター達と、大声で咽び泣く氷の真竜マスタードラゴンの姿があった。ごめんちゃい。
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