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第十六章 冷たくて寒くてCになっちゃう…

第四話 結局泊まることになってしまいました……「ふんぬっ!」「ふんぬっ!」……もうイヤ! ……ですよね…

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「いえ、全々々力でお断りさせていただきます」

 私達はキレイに一礼して、その場をあとに。

「待ちなさい……ふんぬっ!」
「待ちなさい……ふんぬっ!」

 ……できなかった。
 ていうか、こいつら語尾に「ふんぬっ!」つけないとしゃべれんのか!?

「我らが旅館は……ふんぬっ! 他の旅館とは……ふんぬっ! 違う」
「望まれるなら……ふんぬっ! 我らのような……ふんぬっ! 肉体美を」

「結構です」
「現在の肉体で満足だ」
「胸以外はですよねあぎゃああ!」
「エイミア姉は一言多い……私も遠慮」
「|≪回復≫《リカバリー》……私も遠慮します」

 あの筋肉で顔だけエイミアって……想像したくない。

「そう言わずに……ふんぬっ! …体験してみなさい……ふんぬっ!」
「我らの旅館のプログラムは……ふんぬっ! ダイエット効果が」

「「「やりますっ!」」」

 ええっ!?

「ちょっと!? エイミアにリジーに……ヴィーまで!?」

「わ、私は二の腕が……」

「呪いを食べ過ぎた」

「私はサーチの為に……ゴニョゴニョ」

「……お前らなあ……あいつらみたいな、マッチョになりてえのかよ……」

 リルのため息まじりの一言に、3人は全力で首を横に振った。

「そりゃそうよね……。エイミアやヴィーが筋肉達磨あんなのになったら、絶交しちゃうわよ」

「「はうっ」」

 はうっ?

「「気を付けます!」」

 な、何を……?

「そこの2人の方もぜひ……ふんぬっ!」

 そう言われてもねえ……。

「私は体型で悩んでないし……ていうか太るほど食べないし・・・・・・・・・

「「はうっ」」

 ……さっきから「はうっ」「はうっ」うるさいんだけど……。

「そうだな……私もすぐ痩せられる・・・・・・・し」

「「はうっ」」

「何なんだよ、さっきからはうはうはうはう……」

「ま、そういうわけだから……あんた達だけで泊まりなさいな」

 私とリルは、もう少し静かな旅館に泊まるからさ。

「「「そ、そんな~」」」

「……バストアップも見込めますぞ……ふんぬっ!」

「私も泊まるぞ! ホントにバストアップするんだろうな!」

「ちょっと落ち着きなさいよリル! どう考えたって脂肪は削られるわよ? どうせ筋肉でガチガチにされるだけよ?」

「……そうなのか?」

「我らの……バストトップは……ふんぬっ!」
「余裕の100㎝越え……ふんぬっ!」

「お前らがバストトップって言うのは止めてくれ!!」

 お願いだから「胸囲」って言って……。

「大体なあ、胸が揺れなきゃ意味ねえんだよ!!」

「揺れますぞ……ふんぬっ!」

 ピクピク

「筋肉をピクピクさせてるだけだろがああああっ!!」

 ……ここ泊まったら、逆に疲れるだけだわ……。


「いらっしゃいませ……ふんぬっ!」
「ようこそおいでくださいました……ふんぬっ!」

 ……あんたらさあ……。
 一応私達はお客様なんだからさあ……筋肉誇張するポーズよりも、頭を下げなさいよ……。

「えっと……こうですか? ふんぬっ!」

「エイミア、やらなくていいから……」

 マッチョホテルマンがペンと宿帳を持って私達のところに来る。相変わらずの危ない黒パンツだけど、意味のない蝶ネクタイが追加されていた。
 半裸のマッチョの蝶ネクタイ姿……。一体、誰得?

「宿帳に記入をお願いします……ふんぬっ!」

「あ、はいはい……ペンをお借りしても?」

「どうぞ……ふんぬっ!」

 何でペンを貸すだけでポーズが必要なの……?

「じゃあ借ります」

 ズシンッ!めきっぼきっ

「きいいあああああああ!! ゆ、指が! 指が折れたああああ!」

「サ、サーチ!? 大丈夫ですか!?」

「ペンをどかしてええっ!!」

「ペンを……?」

ずしっ

「な、何ですかこのペン!? めちゃくちゃ重い……! ヴィー、お願いします」

「重いって……本当ですね。かなりズシリときます」

 ヴィーがペンをどかしてくれた。
 い、痛い……!

「筋肉の基本は鍛練にあり! 文字を書く時も鍛練あるのみ……ふんぬっ!」

「こ、こんなクソ重いペンで文字が書けるかあっ!!」

 ヴィーが|≪回復≫《リカバリー》で治してくれてる間に、私はマッチョホテルマンに文句を言った。

「これぐらいで音を上げては……ふんぬっ! ダイエットは難しいかと……ふんぬっ!」

 そのペン持てるころには、腕の太さ倍になってるわよ! 

「仕方ありません。私が書いておきます」

 私の指の治療を終えたヴィーが代わりに書いてくれた。

「……ほお……そちらの女性は見所がありますな……ふんぬっ!」
「我らと同じ境地に至れそうですな……ふんぬっ!」

「私が見所があるのですか……」

「……ヴィーがマッチョになるの? 止めてよマジで……」

「私は今のままでいいです!」

「そうか……残念ですな……ふんぬっ!」
「仲間が増えると期待したのですが……ふんぬっ!」

「ヴィーを巻き添えにしないでくれる!?」

「ああ……サーチが私の事を想って……。やはりサーチは私の事を……ぽっ」

「すいませーん、ちょっと妄想に耽ってる娘がいるんですけど、ムキムキコースでお願いしまーす」

「サーチ!?」

「冗談よ、冗談……」


その後、部屋に案内されたんだけど……。

「んぎぎぎぎぎ……! ドアが開かない……!」

 ……から始まり。

「な、何だこのポット!? 重くて持ち上がらねえぞ……!」
「んぃ~~~! 蛇口が回らない~!!」
「このスリッパ、片方だけで漬け物ができる気が」

 ……という具合で、下手したら移動すらままならない状態。

「そうですか? 普通に生活できますが……」

 ……ほとんどヴィーに頼らないと、どうにもならなかった……。


「はい、サーチ。あ~~ん」

 当然ながら、箸もスプーンもフォークも同じ超重量仕様で……持てない。
 そんなんじゃ食事も難しいので、手掴みで食べるか……。

「サーチ、恥ずかしがらなくてもいいんですよ。ほら、あ~~ん」

 ……ヴィーに食べさせてもらうか。

「ヴィー、いいから。私も手掴みで食べるわよ」

「……蕎麦をですか?」

 ……こういうときに限って、アツアツの料理が出てくるんだし……。
 リルは「熱いニャ!熱いニャ!」と叫びながら食べてるし、リジーとエイミアも悪戦苦闘している。

「ほら、サーチ。恥ずかしくなんかありませんよ~~」

 ヴィーはニコニコしながら迫ってくる。
 ……あーもう、わかったわよ!

「はいはい、あ~~ん」

「♪ ……はい、どうぞ」

 ………………美味しいわ。

「じゃあサーチ♪ 私にもくださいな♪」

 あんた問題なく、その重い箸持てるでしょ!

「サーチ、やってやれよ……」

 ……仕方ない。今日はヴィーに指治してもらったし。

「じゃあ目を閉じて、あ~~んして」

「は、はい……あ~~~~ん」

 ……口でかいな。
 入りそうね。

「えい」

「ぱく……んぐ」

「ホ、ホントに入るのね……生卵入れてみたんだけど」

「うー! うー!」

 あ、怒ってる。

「サーチ……そりゃねえぞ……」

 ごめんごめん、つい。

「んうーっ! んうーっ!」

「? ……どしたの?」

「えっと? ……喉に詰まったみたいです」

「ええ!? 割りなさいよ!」

「んぐぅーっ! んぐぅーっ!」

「えっと? 割れないみたいです」

「おい!? 顔色がヤバいぞ!!」

「サーチ姉、さっき飲ませたの茹で卵・・・

 げっっ!!

「ちょっとヴィー! 吐きなさい! 吐きなさいっての!」

 ばんばんばん!

 目一杯背中を叩きまくる!

「むぐぐぐ……ぷはあっ!」

 ぽんっ

「あ、出たあ! 良かった……ごめんなさいヴィー!」

「けほけほ……はあはあはあ……」


 ……一晩中、石化正座の刑になりました。
 一瞬だけど……楽器の大魔王が浮かんだのは、私だけかな……。

「……サーチ、反省してないようですね……」

「ご、ごめんなさいごめんなさいきいああああああああっ!!」
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