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4.鬼も人も憎み合っていましたが
雷乃発声 かみなりすなわちこえをはっす 7
しおりを挟む「てか、報告する前から知ってたのかよ、殺しちまった事」
「鬼のトップの情報網なめんな」
そう言った親分にべーっと舌を出す。
どうせ、始めっから私以外の間諜も新川につけていたに違いないのだから。
チクリと痛む胸を無視して、出した舌を縦横に動かしてやった。……私も大概、餓鬼だ。
「そういう顔になっちまうぞ」
「うるせえ」
「……九十九が本星だったっつーことは、新川の中の鬼殺しの精鋭の内、少なくとも一人をやったっていうのに、今んとこ全くごたついてねぇ。つまり、それを抑えるために動いた奴が鬼殺しの重役の可能性が高いってこった。
ここまで来たら、重役が表立って動かないわけにはいかねぇだろ? 重役を潰すなら、今が好機。そう思って、お前らと入れ違いに鬼を忍ばせてたんだ。そいつからの報告で、裏で操ってる奴は恐らく蕪木だと分かった」
だから、と親分は私の目を見て、酷く残酷な言葉を平然とその唇から落とす。
「今度は、蕪木だとわかったら、迷いなく殺せ。遊女になる手筈は整えてある。お前は行って、ただ止めを刺せばいい」
「分かった」
私が呟いた言葉は、冷たく床に落ちて行った。
気が付けば、窓から差し込む夕日は、闇に飲み込まれかけていた。
「……他に調べる人間は?」
「いねぇ、蕪木だけで大丈夫だ」
「じゃあ、殺ったらまた戻ってくればいいのか?」
「……ああ、頼む」
「了解、親分。明日には立つよ」
そう言って踵を返し、左手でドアノブを回す。
キィと軋んで開いたドアに半身を滑り込ませながら、もう一度部屋を振り返り、ソファでふんぞり返ってるおっさんに、そう言えばと言葉を投げる。
「睦月さんと仲直りしろよ」
「うっせぇ、ほっとけ」
「……睦月さんがおっさんの隣にいないと変な感じするんだよ」
「……わーったよ」
煙管を支えている右手とは反対側の分厚い手をひらひらと振って、不貞腐れながらも頷く親分に、ニッと笑い返して、もう一歩部屋の外へ踏み出した。
「わっ」
「…………蘭」
扉を開いた時から、若干鼻をくすぐる蘭の香りに、幼馴染の私が、気が付かないわけがない。
出てきた私を驚かせようと壁にぴったりとくっついていた蘭は、思ったのと違う飄々とした私のリアクションに、不満そうに頬を膨らませる。
「何だよー、もうちょっと驚けよ。割と待ってたんだぞ」
「……蘭の匂いしたから」
「……」
正直に思った事を答える。
すると、何故だか蘭の息が止まる。不審に思ってその顔を覗き込めば、途端にさっと逸らされるその視線。何かを隠すようなその仕草に、少しだけムッとした。
まるで、蘭の頬の膨らみが私の頬に移動したみたいだ。
「……何で黙んだよ?」
「いや、何でもないよ」
そう問いかければ、蘭は、慌ててへらりと笑ってそう答え、両手を頭の後ろで組み私に背を向けた。その様子に、何処か引っかかるものを感じて蘭の前に回り込んだ。
「……蘭?」
その名を呼ぶ。伏せられていた瞳が、私を射抜く。
まるで綺麗な硝子細工の様に澄んだ瞳で。久しぶりに、こんなにもちゃんと、蘭の目を覗き込んだな、と思った。
同時に感じる違和感。
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