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3.鬼と人が暮らしていました
お兄がいなくなるまであと4日
しおりを挟む「母さん、おかわり!」
「はいはい、菫はたくさんご飯を食べるようになったねえ」
そう言いながら、お母さんは、お兄のお茶碗に山盛りのご飯を盛った。ホカホカとあたたかな湯気が出て、私もついついおかわりが欲しくなってしまう。ごくん、とつばを飲み込んで、ダイエットの為よ、と我慢する。
最近は着物や袴の帯をしっかり締めるように気を付けているのだ。もう私も12歳、立派なレディだから。そう思って、代わりに茄子の漬物をぱくり、と口の中に放り込んだ。茄子なら太らないだろう。このお腹の空き具合なら、あと10個はいける。
もぐもぐと咀嚼を続ける私に気づいたお兄は、これ以上私が食べ過ぎないようにと漬物の蓋をそっと締めた。
「小梅、食べ過ぎ」
チッ。
行き場のなくなった私のお箸の先端は、めげずに今度は芋の煮付けに向かった。
「あと1週間で、菫もついに、“鬼”の仲間入りかぁ」
お父さんが、琥珀色の瞳を潤ませてそう言いながら、誇らしげに鼻の下を伸ばす。琥珀色の瞳を瞬くお母さんも、とても嬉しそうだ。
それもそのはず、この鬼ヶ島で“鬼”という仕事に就くことが出来るのは、僅かに限られた15歳以上40歳以下の男性のみ。鬼という仕事は、憎き人間どもからこの鬼ヶ島を護る言わば国防のお仕事。鬼になるためには、信じられないほど厳しい試験を潜り抜けなくてはならないのだ。そして、合格したら、1年に1度、10日しか家には帰れない。他の355日はすべて任務にあたるのだ。
「もう刀は貰ったのか?」
嬉々としてそう尋ねるお父さんに、お兄は首を横に振る。ごくん、と飲み込む音の後に、「まだ」という返事があった。
“鬼”になると、特別に帯剣が許されるらしい。そりゃそうか、丸腰でどう戦えっていう話よね。私は女だから、鬼になることはないし、詳しくは知らないけど、何だか武器にも色々な種類があるらしい。
二杯目のお茶碗を空っぽにしたお兄は、芋の煮付けのお皿と口を往復する私のことを横からつつきながら、嬉しそうな両親に向かって言葉を落とす。
「俺、立派にこの鬼ヶ島を護ってみせるよ」
そう言いながら、にっこりと笑ったお兄が、この家を出て行くのは4日後の4月16日。奇しくも、それはお兄の17歳、私の13歳の誕生日だった。
【残り4日】
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