唐紅の華びら

桜樹璃音

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し んじあうことができたなら

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どの位時間が経ったのだろう。


「それ以上、近づかないでくれ」

「なぜ?」


純粋に、尋ねてくる。

っは、と息が漏れる。
お前は、よく。

よく、間者なんてマネができたもんだな。
感情がダダ漏れで、バレバレじゃねぇか。

そんなお前に、騙された俺は――――もう、手の施しようのない、馬鹿だってことだな。


ぐっと、唇を噛み締めて。その隙間から、声を押し出す。


「―――お前は、―――誰だ?」


喉の奥から、掠れた言葉の塊が、押し出されて漸く形になった。


「………あ、」


その声は、瑠衣に届いて。形の良い唇から、吐息にも似た落胆の音が零れ落ちる。

そして、その瞳が、大きく見開かれる。
ぎゅっと、その唇が辛そうに閉じられる。


「―――ばれちゃった…?」


――――痛い。
その声は、ひたすらに、痛みを憶える響きだった。


「仕方ない、なぁ………」


そういいながら、ぼろりと、透明な雫を蒼から落とす瑠衣。


「――――っ」


ああ、だから。
泣くなよ。馬鹿。阿呆。ドジ。間抜け。

罵詈雑言は一つも音になってくれないまま、口の裏に張り付いていて。


「最初はね、………怖そうな人だと…思ったの。勝手に私の事、組み敷くし………、乱暴するし、笑顔ないし」


けどね、と、黙っている俺に、ぽつりぽつり零していく。


「………初めて身体を重ねた後――私の事、物珍しそうに見ないで、ちゃんと人として――女として扱ってくれたのは、晋作、貴方だけだった」


あたりめぇだろうが、馬鹿。
だって、お前は―――俺の、可愛い、女だろう?


「だけど、情報を――売らなければ、私は殺されてしまうから。だから、ごめん、なさい。貴方達を、――売ったのよ」


本当に、好きにならないように、必死だったと。
そう、お前は泣きながら、その可憐な唇の上に悲愴な声を漏らす。


「だけど―――私も、貴方の事、好きに、なっちゃったんだ、よ」

「――――阿呆」


間者なんだろう?
だったら初めから、笑うなよ。泣くなよ。俺の心まで入り込んで来るなよ。


感情を、―――見せねぇでくれよ。

心が、持たなくなる。

持っていかれる。全て。


瑠衣を、護りたいと。護れる力が、あればと。そう思う。



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