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も のさしが違うだけで敵になる
しおりを挟む刀を引っ提げて、いつも通り瑠衣の場所へ向かった。
足取りは、重い。
近づくごとに、足を持ち上げて前に進むのが、難しくなる。
まるで、水の中を進んでいる気持ちになる。
どろどろと、己に巻き付いてくるような、そんな気がする。
けれど、目的地があるのなら、いつかは着いてしまうもので。
重い腕を持ち上げて、からり、と扉を開けばそこにはいつもとなんら変わりない瑠衣。
「晋作!今日は何が食べたい?」
そう言って、くるり回ってみせるお前は、――奇しくも、初めて出逢ったときの、唐紅の着物姿。
やっぱり一番似合うなと、そう思いながら。
ああ、お前は、このまま――この純真無垢なまま、俺を騙したのか。
あの時も、自分が攫われたふりをして、俺を誘き出したのか。
だから、あんなに、謝罪の言葉を。
それに気づいたら、肺が締め付けられるように呼吸が苦しくなった。
畳の上に胡坐をかき、勝手場で料理をする瑠衣の後ろ姿を見つめていることが居た堪れなくて、刀を手に取った。
刀の鯉口を切って、少しだけ露にした銀色の刀身をじっと、見下ろす。
この俺の刀が、鈍く光を放つとき。暗い紅に、染まるとき。
もう、その眼が開かれることはない。
あの蒼に、見つめられることは、二度とないのだと。
そう、思ったら。
「―――は」
いや、待てよ。ちゃんちゃら可笑しいだろ。止まれよ。
世界が、滲む。じわりと、歪んでいく。
瑠衣の後ろ姿がぼやけて消えそうになる。
感情は―――止め処ない。もう、駄目だった。
亡くしたくねぇよ。傍で、笑っていてほしいに決まってんだろう?
俺が―――唯一。
心を、許せる女だっていうのに。
ああ、如何して。如何して、お前はお前なのだろう。
俺の瑠衣は、―――――何故、「敵」なのだろう。
「晋作?」
「――――来んな!!!!!」
吠えた。
びくりと体を強張らせて、瑠衣は止まる。
来たら――俺は。
お前を、斬らなくてはいけないから。
お前は、へにゃりと眉を下げて、大きな蒼い瞳に戸惑いを湛えて静まり返る。
しん、と沈黙が落ちる。
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