唐紅の華びら

桜樹璃音

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お なじ未来をのぞんでいるはずなのに

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次に目覚めたときには、布団の上だった。

夢だったのかと、思った。
夢ならば、どんなに良かったか。


だけど、残酷なこの時代は、夢見ることすら許してはくれない。
大きく溜息をついて起き上がれば、伊藤がそっと俺の身体を支えてくれた。


「目が、覚めましたか」

「ああ」

「お身体は…、大丈夫ですか」


その声に、つと違う響きが含まれていると思った。
だから、伊藤の顔を見上げた。

じっと見つめた伊藤の顔が、歪んでいる。
その手に、俺の刀があるのを見て。


ああ、あれは―――夢じゃなかったのだな。
そう、ひしひしと感じた。


「ああ、いけるよ」

「本当ですか」

「ああ」


瑠衣を殺すのは。
殺していいのは、俺だけ。

だって、瑠衣を自由にできるのは、


「―――俺だけ、だからな」


はは、と乾いた笑いを零しながら、辛そうな顔をした伊藤から刀を受け取る。


「――なんでお前がそんな顔すんだよ」

「だ、だって――」


伊藤は、俺に刀を渡すとき――涙をこらえるような、痛い顔をした。


「何も言うなよ、平気だから」


口ごもる伊藤に、牽制をかける。


俺は平気だ。平気だ。――――平気だから。
言い聞かせ、虚栄を張る。ただ、ひたすらに。

そうでもしていないと、気が狂ってしまいそうで。
だけど、伊藤は俺の代わりに、ぐっと拳を握って、辛そうに言葉を吐き出す。


「瑠衣さんは……晋作さんの、大事な、お人じゃないか………っ!」


眉を諫めて泣くのを堪える表情をした伊藤からは、俺の事を本当に気遣う様子が伝わってきて。
揺らぎそうになる。

甘えたくなる。
――泣きたく、なる。

込みあげてくる気持ちを、飲み込むように、ごくりと喉を鳴らした。


「大丈夫だから」


ああ、俺は幸せ者だな。しみじみ思う。
こんな顔をして、俺の心情を慮ってくれる人が、傍にいるんだから。


だから、護らなくちゃな。この世界を、この場所を。


けほ、と残った咳を追い出す。
憂いを共に吐き出すように。



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