唐紅の華びら

桜樹璃音

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な んて素敵な世界だろう

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「瑠衣――――」


抱きしめようとして、目に映った手のひらに自制心が働いた。


真っ赤な、この手のひらで。
穢れ、汚れ、みなを裏切った、この手で。

俺は、瑠衣に、触れてもいいのだろうか。


「大丈夫、何もしねぇから」


自嘲気味に舌の上で言葉を転がし、瑠衣の手首を縛っている縄を、血塗れた刀で切り落とす。

刀身が手首に少し触れたとき、瑠衣はびくりと震えた。
解放され、赤く皮が剥けた手首をさすりながら、堰がきれたようにぼろぼろと涙を流す瑠衣に、申し訳ない気持ちで胸が一杯になった。


「ごめん、瑠衣……」


危険な目に合わせて。
傍にいてやれなくて。
怖い思いをさせて。
――――護って、やれなくて。


俺は、もう。
傍にいないほうがいいのではないか。

瑠衣を、解放してあげたほうが――――瑠衣は幸せなのではないか。


じっと自分の手を見下ろしてそんなことを考える俺に、瑠衣は。


「無事で、………よかった―――……っ!!!!」

「―――え?」


真っ赤に腫れた腕を俺の首に回して、これでもかという程に抱きしめた。
瑠衣の温もりを感じて、一瞬、頭が真っ白になった。


あること以外は、何も考えられなくなった。


ただ、1つだけ。


俺は――――瑠衣が、好きで。好きで。―――好きで。


それだけが深く深く、俺の中に、身体に、心に、染み渡っていく。


血塗れた自分の存在が、霞んで。
真っ新な自分に、成れたような―――そんな錯覚に陥った。




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