唐紅の華びら

桜樹璃音

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ろ うそくの灯をともし

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空が白んで来たとき。
漸く、女を解放した。

その腕を解放した途端、ばっと距離をとる女。
部屋の隅にしゃがみ込み、膝を抱えた。


「……っ、く、ふっ、ひっく…………」

「………」


泣くんかい。
いやまぁ、そりゃ泣くだろうけどよ。


覚悟してきたんじゃねぇのかよ。


「あー、……おい」

「…………」


ガン無視。
まぁ、そうだよな。


何の慰めにもならないと思うが、風邪は引かないようにと、そっと羽織をその肩にかけてやれば、びくりと怯えるようにこちらを見る蒼。


「………悪かったよ」

「っ」


ぽん、とその頭に手をのせる。


「慣れない場所でこんなことして、悪かったな」

「………優しい」

「あ?」


此奴は何言ってんだ?


「優しい?馬鹿じゃねぇの」


あんなことをされておいて。
頭わいてんじゃねぇの。


「貴方は―――優しいのね」


罵倒されても、同じ言葉を繰り返す彼女。


単純に、興味がわいた。
面白いことのない日々に、一ミリのスパイスが降ってきたような。

そんな気持ちになったから。


「俺が、名をやろう」

「え?」


きょとんとしてこちらを伺ってくるその様子に、知らず知らずのうちに笑みが零れる。


「瑠衣―――お前は、今日から、瑠衣だ」

「るい?」

「そう、瑠衣」


久方ぶりに笑っている自分。可笑しいと思う。馬鹿げていると思う。
だけど―――ここで出逢えたのは、何かの運命だと思ってしまう。


ちゅ、と唇を軽く啄む。
目を白黒させて驚く、その姿が妙に可愛くて。


「喘いでいる時とは全然ちげぇのな」

「?」

「あー、分からねぇのか? やられてる時はもっと色っぽいのにな、って」

「っ!」


意味が分かった途端に頬を赤らめる。


「ふ、」


思わず声を出して笑ってしまった。
こんなに和やかな気持ちになるのは、久々だった。


「瑠衣」


名を呼んで、手招きすれば、そっと距離を縮める瑠衣。


「高杉様」


様付で呼んでくる瑠衣の腕を掴んで、すっぽりと自身の腕の中におさめた。



「あー、それ。やめろ。俺は――晋作」

「しんさく?」

「そう、晋作だ」


こうして、瑠衣はこの日から、事実上、俺のものになった。



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