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第5章 本当の気持ち
第19話
しおりを挟む「今日も暑いですなぁ」
そう言いながらも、困惑している私に気が付いたようで、その綺麗な形の眉を下げる。
「こんな処で如何されはったの」
「……いや、人を追って来たんですけど」
「え? もしかして、お仕事中でした?」
「あ、いや……」
否定してはみたけれど、何と言っていいのか分からずに口ごもる。そんな私を見て、大きな目をぱちくりと瞬いたお梅さんは、勘違いしたのか、慌ててお辞儀をして去ろうとする。その後ろ姿に、思わず声をかけた。
「あの……!」
「はい?」
「……このお店って、……裏口とか、ありますか?」
そう言って私が見上げたのは、新見さんが消えた細い路地の隣に立っている建物。私の目線を追ったお梅さんは、何故かくすりと笑ってその唇に笑みをのせる。
「ありますよ。特別なお客様だけの通り道。この路地を少し行ったところに」
「え、本当ですか!?」
きっと新見さんは、そこから店の中へ姿を消したに違いない。まさかお梅さんがそんな事を知っているなんて。
「でも、如何して?」
そう尋ねれば、綺麗な淡い桜色の着物に身を包んだお梅さんは、その頬に浮かんだえくぼをより深めて、にっこりと笑った。
「だって、ここ、私が居たお店なのよ」
「え」
「自分の出ていた店だもの、知ってるわ」
こっちよ、とその白い手のひらをゆらりと振って、私を手招く。
その指先に引っ張られるようにお梅さんの傍に寄れば、彼女はもう一度くすりと笑って店の正面へと回る。その細くてしなやかな背について私も足を運んだ。
木組みの扉に手を掛けてからりと開く。お梅さんがそのまま中に入れば、驚いたような声がした。一緒に入ってもいいものか分からずに、おずおずと中を伺っていれば、お梅さんは首だけ覗かせて、私の事を呼んだ。
「璃桜さん、入って」
「あ、はい」
「入ったら閉めてね」
その言葉にからからと引き戸を引いて、外の世界を遮断する。一気に光が途切れて、仄暗くなった。明るい場所に居た私は、光彩を上手く調節できずに、何度か目を瞬く。その間にも、先ほどの驚いた声と同じ声の持ち主が、お梅さんに駆け寄ってその顔を見上げていた。
「お梅……お前如何したんだい、こんなところに戻ってきて。まさか、何かあったのかい」
ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返している私など目に入ってない勢いで、お梅さんの両腕を擦る。そんな様子の女性にふふっと小さく笑って、お梅さんは自身の腕を擦る、ふくよかな腕を止めた。
「大丈夫よ、女将さん。今日は挨拶に来ただけよ」
女将さん。背は低いけれど、その身体のうちに秘められた明るいエネルギーがその所作から零れ出しているこの人が、この店の。
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