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第5章 本当の気持ち
第17話
しおりを挟むじわじわと蝉が鳴く中、時折吹く風がどことなく秋の匂いがする。
「璃桜ちゃん、もう少し後ろに下がってー!」
「はーい」
勇坊の声に2,3歩後ろに下がって、手に持った布を引けば、パンッと音を立てて広がった、真っ白の布団カバー。
優しい石鹸の香りに、為坊がそのぷくぷくとした顔をほころばせる。
今日は、8月30日。歳三に自分の気持ちを打ち明けてから、およそ2週間が経過した。
けれど、私達の間柄は、何ら変わりない。それが居心地が良いけれど、少しだけ、切ない。チクリと痛む心臓を無視して、毎日を過ごし続けている。そうすれば、いつか、ちゃんと仕舞いこむことが出来ると信じて。
そんな歳三は、近藤さんたちとみんなで、容保公に極秘で呼び出されたとかで、屯所を留守にしている。
……何で容保公に呼び出されたのだっけ。
一生懸命に記憶の棚をひっかきまわすけれど、8月30日に呼び出されたなんて史実は見つけることが出来なかった。極秘だから、記録されていないのだろうか。
そんな事を思いながらぼーっとしていたら、
「璃桜ちゃん! ちゃんと引っ張ってやー!」
と勇坊に怒られてしまった。
「ごめんごめん」
「それにしても、いい匂いだねぇ」
「うん、そうだね。でもこれからお日様を浴びて、もっといい匂いになるよ」
そう為坊に向かって答えて、竹竿に伸ばした洗濯物を干していく。
何故か視線を感じて、ふと顔を上げれば、目線の先には、ひょろっとした立ち姿。
目が合う寸前に逸らされた不自然さに、思わず眉を顰める。
「如何して、新見さんが……?」
疑問符が脳裏に浮かぶ。この時間は、特に見回りなどは無かったはずだ。
そんな事を考えている私の姿に、聡い勇坊は、洗濯籠に手を伸ばす。
「璃桜ちゃん、おいらがやるよ。お仕事でしょ?」
そう言って手伝ってくれようとする勇坊に、抱えていた洗濯籠を手渡した。
「ありがとう、勇坊」
「おいらもやる!」
「為坊もありがとうね」
そう言って手を振りながら、裏口から出て行った新見さんをこっそり追いかけた。
まだ残暑が厳しいこの季節、歩き出せばジワリと額に汗が浮く。それを袖で拭いながら、新見さんの後をつかず離れず、ついていく。
追いかけながら、ここ最近起きた新見さん周辺の出来事を思い出していた。
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