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第5章 本当の気持ち
第12話
しおりを挟むとにかく、今回の件で壬生浪士組が呼び出されたのは、大和行幸を起こさせないように、御所を囲い、長州藩を近づけないようにするという会津藩のお手伝いだった。
そして、明日までには、反幕派を全て追放してしまえという公武合体派の目論見が成功し、討幕派の公家衆と共に、長州藩は京を追われてしまうのだ。
これを、八月十八日の政変、と人は呼ぶ。
正午ごろに呼ばれた壬生浪士組は、全員が総出で出勤したといわれている。その時の名簿が平成でも残っていた。
そこには勿論、私の名前はない。こういう事か、と独り言ちた。
から、と襖が開く。驚いて目を向ければ、そこには見知った可愛い顔が3つ並んでいた。
「あれ、璃桜ちゃん居るね?」
「みんな、如何したの?」
「……お梅さんって人がこっちに来てるんよ、璃桜ちゃん、知ってる?」
そう言った勇坊に、布団からよっこらせと立ち上がった。
「お梅さん来てるの? 分かった、今行くね」
「うん、八木邸の広間にいるよ」
「ありがとう、みんな」
簡単に身だしなみを整えて、勝手場でお茶を入れ、八木邸に顔を出せば、お梅さんはこないだ会った時のようにそっと畳の上で正座をしていた。
「お梅さん」
「あ、璃桜さん、いきなり押しかけてすみません」
「いえいえ」
むしろ、私しかいなくて申し訳ない。お梅さんにお茶を手渡して、誰もいない理由を説明する。
「今日、みんな会津藩からのお呼び出しでいないんです」
「それは……一大事ね。道理で何だか外が物々しい雰囲気だったのね」
一口お茶に口を付けたお梅さんは、そっとそのお茶椀を下ろす。
そして、私に向かって首を傾げた。
「璃桜さんは、どうして?」
「あ、……私、この間の大和屋の一件で、怪我しちゃって……微熱があるんです」
「あらあら、それはわざわざ、起こしてしまって御免なさい。すぐお暇しますね」
「あ、大丈夫ですよ、もうだいぶ良くなったんで」
「それならいいんですけれど……」
そう言いながら、心配そうに眉を下げるお梅さんに、本来の目的を聞くことを思い出した。
「お梅さんは、どうして今日こちらに?」
「芹沢先生に、会いに来たの。でも今日は忙しそうね。また今度来ます、とだけ伝えていただいてもいいかしら」
「はい、わかりました。伝えておきますね」
にこりと優し気に笑ったお梅さんは、この間の憂いがしっかりと拭われて、とても晴れやかな笑顔。
思わず、帰りがけに、声をかけてしまった。
「お梅さん、良かったですね」
「ええ、本当に……」
その背を見送って、使ったお茶碗を片付ける。
洗いながら、じっと、大和屋で芹沢さんが言ったことを反芻した。
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