ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第41話

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歴史を変えようと――芹沢を、止めようとしたんでしょ?

図星をつかれてぐっと俯こうとする私の顔を、大きなその掌が持ち上げる。

憂いを帯びた、その瞳に、どこを見たらよいのか分からなくなって、目が泳いだ。



「上手く、……できなくて、」



焼き討ちを止めようと、思っていたのに。

そう言葉を紡ごうとした―――――刹那。



「やめろよ……!」



視界が、奪われる。

ただその、浅葱色に、染まる。



「何で、璃桜がやらなきゃいけないの? 璃桜が未来を知ってたら、同じように生きられないの? 俺も未来がわかれば良かったの?」

「っ」



怒ったように吐き出されるそうちゃんの言葉が、鋭利な刃物の様に、心を削る。



「如何して璃桜は、未来を知ってんだよ……っ」



思わず目を瞑った。じわりとそうちゃんの羽織の肩口に、涙が染み込んだ。

心が、酷く痛い。ぎゅっと噛み締めた唇から、鉄の味がした。



「頼むから、俺の、傍に、……俺の眼の届くところに、いてよ…………っ!」



―――――父さんに助けられた命なんだから。

耳を掠める、そうちゃんが発した呟きは、私の小さな掌で受け止める前に、ぼろぼろと地面に落ちていく。



「璃桜は憶えていないけど、父さんが璃桜の命を救ったんだ」

「……っ」



そうちゃんの言葉通り、私は小さいころを何も憶えていない。



「約束、したんだ。俺が、璃桜を護るって」



そうちゃんの唇が、耳元で動く。ぽつりぽつりと零される言葉に従う様に、私を抱きしめる腕には力がこもっていく。



「………父さんに助けられた命、無駄にするなんて、俺が絶対に許さない」



“今を生きよう”



そう言ってくれたのは、そうちゃんだった。

私なりに、“今”を生きてきた、つもりだった。

でも、私のやってきたことは、今を生きている人を否定することになるのかもしれない。

芹沢さんに言われた言葉、そうちゃんが零した台詞。

心を切り裂くかのような言葉たちに、自分の悩みを粉々に砕かれた気がした。



“歳三と、みんなと同じ目線に立ちたい”



歴史を変えるなんて言っている私が、そんなことが、出来る訳がなかった。




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