ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第38話

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目を見開いた刹那、額から伝った汗が染みて、思わず目を瞑った。

バクバクと自分の血潮が身体中を巡る音がした。



「大坂に行った時も、我が力士を斬るつもりだった事を知っていた。今回も、金策を断られていた事で、見せしめに焼き討ちをしようとしていることまで知っていた」



お願い、訊かないで。私は、如何すれば、いいの。

けれど、願い虚しく、芹沢さんの口から落とされた言葉は、私の望まない問い。



「何故、知っている」

「……っ」



私は、未来から、この時代に、来た。

未だ来ていない時間軸から、――――来たの。



「璃桜、答えろ」

「……それはっ、」

「………言えぬのか?」



ぎゅっと口を噤んだまま、答えられない私を見て、癇癪を起こすでもなく、胡坐に頬杖をつきながら、じっとこちらを見つめる。



「璃桜、お主、……この先の時代から、来たな?」

「っ!」



息が、止まった。ごくりと、喉が鳴った。



「やはり……道理でおかしいと思ったのだ。突然現れた、沖田の弟? ここまでくる道のりで一度も会わなかったのにか? 沖田はもともと、江戸の出だろう? 弟だけ京にいるなんてことそうないだろう。土方が妙にお主を庇うのも、これで納得だ」



辻褄合わせと、指折り数えた芹沢さんに、俯いたままの私は、返す言葉もない。

じっと屋根の瓦の縁を見ていた。どんな顔をしたら正解なのか、分からなかった。

ただ、頭が混乱して、熱気と酸素不足も相まって、意識が飛びそうだった。

刹那。



「己惚れるな!!」

「――っ!!」



芹沢さんの怒号と共に、炎の橙を反射して、キラリと扇が一閃した。

咄嗟に脇差で払った。けれど、私の身体は、屋根の上から飛ばされた。

ふわりと自由落下する私の瞳には、舞い上がる火の粉に包まれて鬼のように笑う芹沢さんが映った。



「璃桜!!」



どさっという音と共に、下にいた隊士に受け止められる。

払われた力の反作用で脇差にぶつけた唇から、じわりと血が滲んだ。




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