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第4章 歴史と現実
第36話
しおりを挟む夜中に、誰かに呼ばれたような気がして、ふと目が覚めた。
「……歳三?」
身体を起こして、隣の布団を見れば、寝た形跡がない。
「……まだ仕事でもしてるのかな……」
よっこらせ、と年寄りみたいな声を上げて布団から起き上がった。
「……」
ぼーっとした頭が、徐々に覚醒してくる。
ふと思い出したのは、焼き討ち事件のこと。
確か、真夜中12時から焼き討ちは始まった……とかなんとか。
「……まさか、ね」
昼間のうちに、お金をもらってきたんだから、金策を拒否したことで焼き討ちにすることはないはず。
芹沢さんも、あの時、平山さんに向かって「今後も」って言っていたから、お金を貰えていることは承知だったはずだ。
じゃあ、どうして、こうも胸騒ぎがするの。
「……っ、」
居ても立っても居られずに、普段の格好に着替える。
髪を解いてしまっていたから、仕方がなくヘアゴムで一つに括る。
脇差を腰に差し、部屋から飛び出した。
夜道を照らすのは、細い三日月だけ。それが、酷く不気味に思えた。
息を切らし、砂利道を駆ける。夏の夜特有のねっとりとした熱気が、身体に纏わりつく。
汗が背中を流れ落ちるのを感じたけれど、その足を止めずに走る。
走り続ける私の耳に届くのは、喧噪。
大和屋の方が、騒がしい。橙色の光が目に映り、疑いは確信に変わる。
「……嘘、」
昼間に来たばかりの大和屋の土蔵が、大きな炎を上げて、燃えていた。
鐘の音が、立て続けに聞こえる。人々の怒号がする。
ゆらり、屋根の上に大きな人影が見えた。
「……っ、芹沢、さん……」
その黒い人影は、私の呟きが聞こえたかのように、目線を下に下げる。
目が、合った。
瞬間、怒りが爆発した。
「……どうして、っ!」
何故、火を放ったの。
原因は無くなったはずなのに、どうして、そんなことをする必要があるの。
怒鳴りつけた私の声は、火消しの人たちと、芹沢さんを主と慕う隊士たちの怒号によって、掻き消される。
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