ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第31話

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「あの、失礼いたします……」



優しい声が、私たちの動きを止める。

振り返れば、そこには珠のように肌の白い女の人が立っていた。



「あ、お梅さん」

「……!?」



左之さんの言葉に、目を見張る。

これが、あの有名な、お梅さん。芹沢さんのお気に入りの女の人。

この時期だと、彼女はもう、菱屋さんのお妾さんになっていただろうか。



「芹沢せんせはいらっしゃいますか?」

「あ、はいっ、いると思います……けど、」

「あ、俺、呼んでくるから、お梅さんは上がっててくれ」



左之さんが濡れた手もそのままに、八木邸へと移動していく。



「お梅さん、どうぞこちらへ」

「あら、今日の夕餉は、煮付けですか?」

「あ、はい……」



そんな話をしながら、客間へ通す。

畳の上にそっと正座した彼女は、とても美しくて。



「お梅さんって、ほんとにキレイ……」



思わずそう言ってしまった。



「……うふふ、ありがとう。ところで、貴方のお名前は……?」

「あ、沖田璃桜と申します」

「沖田? 総司様のご兄弟であらせられるの?」

「はい、弟です」



最近、嘘が上手になってきた……気がする。



「あら、そうなの。私は梅と申します。もともとは島原で芸妓をしていたの。今は、菱屋の旦那様に貰われているの」

「そうなんですね、でも、どうしてそんな方が壬生浪士組に?」



この時期の壬生浪士組は、増えた隊員や、洗い替えの分の大量の隊服を注文している。

注文を受けた先は、四条堀川の呉服商、菱屋太兵衛。

勿論こんな貧乏団体に、それだけのお金を払うことはできないから、筆頭局長の芹沢鴨名義でつけにしているはず。

史実通りなら、菱屋は、取立てに行った番頭さんが、芹沢さんの恫喝を受け続けて、途方に暮れている。

現に、歳三や山南さんが、頭を抱えて芹沢さんの愚痴を言っている姿も、もう何度も見ている。

歴史が変わっていなければ、これが、お梅さんが来ることになった理由。





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