ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第26話

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「……何でもない」

「……あ、そう。ねぇねぇ、今日のご飯は何?」



私の変化に全く気付かないそうちゃんは、洗い桶の中にある野菜に目をやった。

今日のメニューは夏野菜の煮物。



「あ、茄子だ~。俺、茄子なら食べられるよ」



手伝おっか、と腕まくりをし始めるそうちゃんを慌てて止めた。



「大丈夫!! そうちゃんは、掃除でもしてきなよ?」

「……璃桜、………」



あ、やばい、何か気づかれた…?

何を言われても、今の私は答えられるほど冷静じゃない。

焦る私など気にも留めず、神妙な顔でこちらを伺うそうちゃんの口から零れたのは。



「……それ、ダジャレ?」

「は?」



何を言い出すかと思えば。



「いや、……総司が掃除……ぷっ」

「……馬鹿じゃないの……」

「馬鹿って……璃桜が言ったんじゃん……くくっ」

「…………笑いすぎ……ふっ」



ツボにはまったそうちゃんを見ていたら、何だかじわりと笑いが込み上げてきた。



「くっくっく……あれ、璃桜だって笑ってんじゃんか、面白くない?総司が掃除、流行らせたい」

「……そんなこと言って、始めに気づいたのそうちゃんじゃん、」



笑っているうちに、段々ツボってきた。

気がついたら、涙が出るほど笑っていた。



「はー、おっかしいの。璃桜泣いてる」

「そうちゃんだって! もう、ご飯作るからあっち行っててよ!」

「しょうがないなー」



そう言って、くるりと背を向けたそうちゃんは、何故かもう一度振り返り。

ぽん、と私の頭に手を載せた。



「お疲れ、璃桜。今日は頑張ったね」



その言葉に、じわりと涙が浮かんだ。

そうだ、私。お疲れ様、って歳三に言って欲しかったんだ。

ただ、その一言。けれど、私にとっては最大級の誉め言葉。

好きだとか、愛してるだとか、…………キスだとか。

そっと唇に触れる。なぞる。あの熱が、蘇る。





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