ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第25話

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「副長」



その声で、夢の中の人影は、一瞬で、消え去った。

ばっとお互いに距離をとり、背を向ける。

もう、何が何だか分からなかった。頭が、おかしくなりそうだった。

ぎゅ、と襟元を掴んで、心臓を沈めようとした。そんなに簡単に静まるはずもなかった。



「…………斎藤、か?」

「……はい。少し、稽古場でいざこざが起きまして。副長に静めていただければと」

「…………」



その内容に、副長様は、ふーっと大きな溜息を零し、ゆるっと立ち上がる。



「璃桜」

「っ、」



名を呼ばれただけで、びくりと反応する。

必死で自分の身体を抱え込んだ。私は、何を言われるのだろう。



「…………着替えとけ、終わったら夕餉の支度だろ」



身構える私に、先ほどまでとは別人のように素っ気なく言葉を落として、貴方は部屋の外へ出ていった。

パタン、と閉まった扉の音が、どこか拒絶のように思えた。




女物の着物を脱ぎ棄て、いつもの服装になった。

袴の紐をきつくきつく締めて、そっと部屋の戸に手をかける。

まだ、唇に熱が残っているようで、心臓が落ち着かない。

歳三に会ってしまわないように周りを警戒しながら、勝手場に向かった。

無事に誰とも遭遇せずにその土間に足を下ろすことが出来た。

そして、部屋を出てから、何回目か分からない動作を繰り返した。

余韻に浸るように、そっと唇に触れていれば。



「……璃桜? 着替え終わったの?」

「わっ」

「……どうしたの……?」



ほっと胸を撫でおろしていた最中、後ろからそうちゃんに声をかけられて、飛び上がりそうなほど驚いた。再びバクバクと鼓動する心臓を上から押さえつける。



「?」



そうちゃんも着替えてる。さっきまでの事から思考を無理やり離そうとして、そんなどうでも良い事を考える努力をしてみた。





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