ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第22話

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「うひゃ」

「為坊、起きて。もうすぐお家だよ~」

「そうちゃん~、遊んでくれんの~?」

「んー、じゃああと少しお家でいい子にしていて!迎えに行くからさ~」



ゆるく交わされる言葉とは裏腹に、その腰にぶら下がる鈍色は重い。

ああ、私は、この鈍色に、護られているんだと。

その覚悟に、助けられているんだと。

つくづく、実感した。



「璃桜ちゃん、ばいばい」

「うん、またね」



為坊と壬生寺で別れ、私とそうちゃんは屯所へ向かう。

前川邸に入れば、すぐ目に付くところに、歳三がゆるりと立っていた。



「おせぇ」

「ただいま戻りました、はー、あっつい」



ふーと溜息を零しながらそうちゃんは腰かけて、濡れた布で足を拭う。

ちょいちょいと手招きをされたので、私も横に腰かけた。

どっと汗が噴き出して、背を伝う。

そうちゃんから布を受け取って、足を拭おうとした時だった。

そうちゃんがにまり笑って歳三を見上げて、ぐっと拳を突き出した。



「万事整いまして」

「そうか」



歳三は、報告とともにそうちゃんが差し出した風呂敷を抱えた。

素っ気なく零したその言葉には、安堵の気持ちが溢れ出していて、その想いが見えたのか、そうちゃんは、にかっと歯を見せた。



「璃桜のおかげですよ」

「……そうか」



温い風が、淡い私たちのくせっ毛と、歳三の艶やかな髪を躍らせる。

その漆黒の隙間に、そうちゃんの言葉から頷くまでの一瞬の間、幻のように唇の端に笑みを滲ませた。

その笑みに、頬に血が上る。



「璃桜、どしたの?」

「……えっ、何が?」

「顔赤いよ?」

「……っ」



うるさい! といい返して、照れ隠しに中に戻ろうと、立ち上がり、足を踏み出す。

そんな私の顔をにんまりと覗き込んで、そうちゃんは下から額に手を当てようとする。


刹那。



「きゃ……」



後ろからぐいと腕を引かれ、体勢を大きく崩した。

ぽす。



「………え……」



どくんと、自分の心臓が脈を打つのと同時に、違う鼓動が伝わってくる。

歳三の腕が、私の顔の前にある。

硬い胸板が背にあたって。

つむじあたりに、吐息………



「…………!?」



遅れて状況を把握した脳みそが、火を噴いた。



「……えっ、何、土方さん?」



そうちゃんも驚きで目をぱちくりさせている。

てゆーか、



「むり、ああああの、私今汗臭いから!!!! ね!!! としぞ!!!!」



ああ、きっと私の顔は真っ赤を通り越して赤黒くなっているんだろう。

どうにか歳三の腕の中から抜け出すと、その眉間に皺を刻んだ副長様が、私を仏頂面で見下ろしていた。



「……馬鹿」

「……はっ!?」

「……阿呆」

「………え、ごめんなさい……?」




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