ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第18話

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「……軍資金を、用立ててもらえないかと」



そして、何の前置きもなく、本題に触れた。

ここで、如何出てくるのか。それが、この戦いの鍵となる。



「……ほう」



史実では、如何だったっけ。

そもそも、芹沢さんが大和屋にお金をもらいに行ったのは、天誅組に、軍資金を用立てたから。

天誅組に渡せて、壬生浪士組に渡せないことはないと、そう思ったからだと伝わっている。

その上、天誅組というのは、尊王攘夷派のグループである。

壬生浪士組とは敵対関係にあるわけで、芹沢さんはそれが気に食わなかったとも伝わっている。



「……天誅組に、用立てたのならば、こちらにもいくらか、都合していただけないでしょうか」



その単語に、はっとした顔になる店主。

この時勢の中のことだ。

尊王攘夷派に金子を用立てる――もちろんそれは、秘密裏に行われたことなのだろう。



「……どこで、それを?」

「……それは、――言えません」



怖い。今、刀をもっているわけではない。

何かされても、誰も助けになど来てくれない。

唇を、噛み締める。恐れを、飲み込む。

そして、言葉を紡いだ。



「――――壬生浪士組、副長小姓沖田璃桜から、副長の伝言です」

「……何?」



私が壬生浪士組の一員だと思ってなどいなかったのだろう、その言葉に目を見張り、途端に狼狽え始める。

歳三にもらった手紙を、開いて。

――――突きつけた。



「大和屋庄兵衛、貴殿は、生糸、反物、縮緬などを扱う商人である。しかしながら、交易の利益を独占しようと、生糸の買い占めを行っていることが発覚した」

「そんな、滅相もない……」



言い訳しようとする主人の顔を、ぐっと睨みつける。



「副長からの、伝言ですよ」

「っ」



歳三の威厳を、借りる。

ああ、これじゃあ、太陽の光を借りている月のままだ。

狂気に満ちた殿内さんの顔が過る。

だけど、―――私は今、これしかないから。



「そのために生糸の値は暴騰し、庶民の暮らしを苦しめられている。よって、大和屋庄兵衛の身柄を拘束し――――」

「待ってください……!」






―――――――きた。







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