ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第14話

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「……こんなところにいましたね」

「璃桜ちゃん!」



ばたばたしているところに、山南さんが、為坊を連れて現れる。



「山南さん、すみません」

「いやいや。為坊が屯所の前をうろうろしていたんで、何を待っているのか聞いてみたら、総司と璃桜さんだと言うから、探してました」

「お母さまに行ってもいいって言われた!」

「そっか、じゃあ、一緒に行こうね」

「璃桜ちゃん、今日は女の子の恰好なん?」

「そう、初めてよ」

「へぇ~、似合ってるよ!」



為三郎は将来きっと、無意識に女たらしになるに違いない。

小さいころからこんなことを言えるなんて、絶対そうなる。



「歳三みたいになっちゃダメよ」

「?」

「ははは! 璃桜さん、やりますね」



私の言いたいことが通じたのか、山南さんが笑ってウインクしてきた。



「これ以上被害者を増やしたらいけないですから」

「……璃桜さん……何かされました?」



聡い山南さんは、首をかしげて、そんなことを尋ねてきて。
その問いかけに、さっきまでの状態が脳裏に浮かんで、ぼっと、顔が熱くなった。



「されたの?」



そのねちっこい声に驚いて後ろを向けば、そうちゃんと平ちゃんのジト目がいつの間にかこちらを向いていた。



「されてない」

「ほんとに?」

「されてないってば」

「顔赤いけど」

「赤くない。目おかしいんじゃないの」



頑なに首を振り続けていれば、ならいいけど、と引き下がると同時に、そうちゃんが私の頭に手を伸ばして。



「せっかくだから、これつけていきなよ?」

「あ、うん!」



差し出されたのは、部屋に仕舞ってあった、そうちゃんに買ってもらった簪。

浅葱の硝子に桜貝の模様が入っていて、凄く綺麗で。

買ってくれた時に、璃桜の名前みたいだからと言って付けてくれて、そんな綺麗なものに喩えられたら、気後れしてしまいそうだった。

だけど、凄く嬉しかったのも事実。



「え、璃桜、それ可愛い」

「でしょ!」



平ちゃんが褒めてくれて、無意識のうちに反応が大きくなってしまった。

それだけお気に入りなんだな、私。

そんなことを思った。





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