89 / 139
第4章 歴史と現実
第14話
しおりを挟む「……こんなところにいましたね」
「璃桜ちゃん!」
ばたばたしているところに、山南さんが、為坊を連れて現れる。
「山南さん、すみません」
「いやいや。為坊が屯所の前をうろうろしていたんで、何を待っているのか聞いてみたら、総司と璃桜さんだと言うから、探してました」
「お母さまに行ってもいいって言われた!」
「そっか、じゃあ、一緒に行こうね」
「璃桜ちゃん、今日は女の子の恰好なん?」
「そう、初めてよ」
「へぇ~、似合ってるよ!」
為三郎は将来きっと、無意識に女たらしになるに違いない。
小さいころからこんなことを言えるなんて、絶対そうなる。
「歳三みたいになっちゃダメよ」
「?」
「ははは! 璃桜さん、やりますね」
私の言いたいことが通じたのか、山南さんが笑ってウインクしてきた。
「これ以上被害者を増やしたらいけないですから」
「……璃桜さん……何かされました?」
聡い山南さんは、首をかしげて、そんなことを尋ねてきて。
その問いかけに、さっきまでの状態が脳裏に浮かんで、ぼっと、顔が熱くなった。
「されたの?」
そのねちっこい声に驚いて後ろを向けば、そうちゃんと平ちゃんのジト目がいつの間にかこちらを向いていた。
「されてない」
「ほんとに?」
「されてないってば」
「顔赤いけど」
「赤くない。目おかしいんじゃないの」
頑なに首を振り続けていれば、ならいいけど、と引き下がると同時に、そうちゃんが私の頭に手を伸ばして。
「せっかくだから、これつけていきなよ?」
「あ、うん!」
差し出されたのは、部屋に仕舞ってあった、そうちゃんに買ってもらった簪。
浅葱の硝子に桜貝の模様が入っていて、凄く綺麗で。
買ってくれた時に、璃桜の名前みたいだからと言って付けてくれて、そんな綺麗なものに喩えられたら、気後れしてしまいそうだった。
だけど、凄く嬉しかったのも事実。
「え、璃桜、それ可愛い」
「でしょ!」
平ちゃんが褒めてくれて、無意識のうちに反応が大きくなってしまった。
それだけお気に入りなんだな、私。
そんなことを思った。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。


新撰組のものがたり
琉莉派
歴史・時代
近藤・土方ら試衛館一門は、もともと尊王攘夷の志を胸に京へ上った。
ところが京の政治状況に巻き込まれ、翻弄され、いつしか尊王攘夷派から敵対視される立場に追いやられる。
近藤は弱気に陥り、何度も「新撰組をやめたい」とお上に申し出るが、聞き入れてもらえない――。
町田市小野路町の小島邸に残る近藤勇が出した手紙の数々には、一般に鬼の局長として知られる近藤の姿とは真逆の、弱々しい一面が克明にあらわれている。
近藤はずっと、新撰組を解散して多摩に帰りたいと思っていたのだ。
最新の歴史研究で明らかになった新撰組の実相を、真正面から描きます。
主人公は土方歳三。
彼の恋と戦いの日々がメインとなります。

『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる