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第4章 歴史と現実
第13話
しおりを挟む「上向け」
顎を取られた。
「え?」
「口閉じろ」
「ちょ、何す……」
驚いた私の唇に、人差し指の腹を押し付けて。
「静かにしろって、取って食いやしねぇから」
「…………」
そのままそっと歳三は、指先を私の唇にのせる。
「っ」
つぅ、と唇に紅が移る。
まるで、私の気持ちが唇にだけ表れたかのように、朱く、赤く、紅く。
触れるだけの感触が、無駄に、頬を染めていく。
歳三の長い睫毛の下に見える瞳に、真っ赤な顔の私が映っていて。
目のやり場がなくなって、ずっと壁の染みを数えていた。
「おし」
その言葉とともに離れていく指に、漸く体の力が抜けた。
「……何で紅なんて持ってるの」
「あ? あいつ、化けるときに使うんだよ。総司の部屋だろ、ここ」
よくわからなくて首を傾げれば、監察方だと付け加えてくれた。
「総司は黙ってれば女っぽいからな、監察と一緒で、化けることがあんだよ。平助とかも持ってるぞ」
「へぇ」
そんなことをしていたんだ。
全然知らなかった。
「じゃあ、行ってこい」
「……ありがとう」
「気を付けていけよ」
ぐるりと首を回して、ふと、付け加えるように言う。
「……今のおめぇだったら欲情、するかもな」
「……は!?」
「冗談だ、ばーか」
大和屋の件、頼んだぞ、そう言ってくつくつ笑いながら部屋を出ていく。
そうやって。
貴方はいつも、私の心を乱していく。
ずるい。
本当に、人の気持ちも知らないで。
「………馬鹿」
本日何度目かわからないその言葉を呟いた時、そうちゃんがひょいと部屋を覗き込んだ。
その後ろには、稽古帰りに通りかかったのか、何故か平ちゃんもいた。
「わぁぁ、璃桜、凄く似合ってる!!」
「ほんと?」
「本当!」
目をキラキラさせて頷いてくれるそうちゃんに、ちょっとだけ自信が生まれた。
「ね、平助……、って大丈夫?」
「え?」
そうちゃんの声で平ちゃんに視線を移せば、その顔面には。
「やべ、鼻血」
たらりと赤が零れていた。
「ちょ、平助! はやく外出て!! 部屋汚れる!」
「わーったから、押すなって……うお!」
どたんと音がして、恐る恐る入口から除けば、縁側から転がっている平ちゃんとそうちゃん。
「……もー、鼻血とか最悪すぎ! 平助、如何してくれんのこれ!」
「ごめんて言ってんだろ! 璃桜が可愛すぎたからいけねぇんだよ!」
「え、私!?」
とりあえず、もう行ってもいいかな……?
ただでさえ暑いのに、さらに暑くなるくらい、ぎゃーぎゃー騒ぐ二人を見ながら、そんなことを思っていたら。
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