ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第12話

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「歳三、これでいいの?」

「おう……じゃ、そのまま木偶の坊みたいに立ってろ」



くるり紐を腰に回し、綺麗に着付けていく。



「……っ」



腕が身体に回るたび、その胸板が背にあたる。

耳元を吐息が掠める。

もう、恥ずかしすぎて、心臓飛び出そう。



「腕上げろ」

「……っ、こう?」

「そうだ」



如何してそんなに平然としていられるの。

私だけ、緊張して、恥ずかしくて、馬鹿みたい。

うるさい心臓の音を誤魔化すように歳三に話しかける。
勿論、平然を装って。



「如何して、歳三は着付けられるの?」

「本当に聞きてぇのか?」

「……え?」



私の問に、こちらの心を見透かしたように、にまり笑って帯をしめる。

そして言葉を落とす。



「……一度脱がせりゃ、できるようになる」



――ああ。こいつ最低。

いやもう、ほんと最低。

しみじみ、そう思った。



「……何だよその顔」

「……何でもありません」

「女が何でもないっていうときゃあ、何かしらあんだろ」

「……馬鹿」



こいつが女の敵なの忘れてた。



「いつも女の人に引っ張りだこの副長様はいろいろと女心がお分かりのようで」

「だから俺は遊郭なんぞ行ってねぇよ」

「じゃあ何処で覚えたんですかー?」

「……昔のことだろ、拗ねんなって」



いやまて、私は拗ねる要素もそんな関係も何もないぞ。

なぜ拗ねているんだ。私、しっかりしろ。



「拗ねてないし。てゆーか関係ないし」

「そうかよ」

「そうだよ……ぐぇ」



意趣返しのように、ぎゅ、と力を込めて帯を締められた。
何なのコイツ、もう28歳のくせして。



「………餓鬼か」

「ああ?誰がだよ」

「歳三」

「もう着せねぇぞ馬鹿野郎」



そう言いながら結んだ帯を綺麗に整えてくれる。

その事実に、少しだけ心がくすぐったくなった。



「……できたぞ」

「……わ」



ぽん、と帯をたたいて、歳三はまじまじと上から下まで私を見る。



「………上出来」

「ありがと」

「―――にしても、化けるもんだな、女は怖え」



そう言って、ごそごそと引き出しを漁り始めた。



「……確かこの辺に……」



と思ったら。

ちょいちょい、と手招かれて。
慣れない着物の窮屈さに苦労しながら、歳三に近づけば。




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