ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第7話

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そして、見つけたことがある。

彼―芹沢鴨は、策略などを巡らせずに、自分の意思を貫く男だということ。

逆に言えば、自分の意思に反することは絶対にしない。

それが良いことだろうが、悪いことだろうが。

自分が、思うように、動く。
それが、芹沢鴨という、男。

彼が、何を考えて生きて生きたのか。
そして、何を考えて生きていくのか。

そんな芹沢鴨という人物に、少し、魅かれている。

思ったことを、曲げないという点では。

何処までも、何処までも。

彼は――武士だ。



「何故」

「……芹沢さんの、曲がりのない部分に、憧れている、からです」

「……ほう?」



私の答えに、面白そうに眉を上げる芹沢さん。



「貴方は―絶対に、曲げない。それが一般的に悪いことだとしても」

「……璃桜。お主……」



私の言葉を聞いて、少しだけ口角を上げた彼は。



「………我が何をしたいのか、わかるやつは、お主だけだ」

「え」



思ってもみない言葉に、眼を見開く。

そんな私を見て、彼は言葉を続ける。



「如何にも、我は本日、大和屋へ向かい、焼き討ちにする」

「……焼き討ち……」



やはり、芹沢鴨の考えていることは、私の理解の範疇を超えている。

人の気持ちをぜんぜん考えていない。

だけど。



「……焼き討ちではなく…もう少し、穏便に行きませんか」

「何」



意見した途端、ぐにゃりと視線が曲がる。

心が、折れそうになる。

引きそうになる気持ちを奮い立たせて、言葉を紡ぐ。



「……取引、しませんか」

「ほう」

「……大和屋に、私が金を持ってこさせます。だから、注意喚起ほどにしてもらえませんでしょうか」

「お主に、それができるのか?」



やれるかやれないかではない。



「やります」

「……面白い」



そう、芹沢さんならそう言うと思ってた。

ここまでの言葉を引き出せれば、こっちのもの。



「……では、今日の酉の刻限までに、金子を用意しますので」

「……ふん、精々、奮闘すればよい」



できるなどと微塵も思っていないような口ぶりに、悔しさを覚えて、ぎゅ、と唇をかみしめる。



「……失礼します」



ぱたん、と襖を閉めれば、途端、どっと吹き出す汗。

一つ目の関門をクリアした、と思って、自分の部屋に戻ろうとすれば。




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