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第4章 歴史と現実
第6話
しおりを挟む「失礼します」
「……何用だ」
8月13日、昼。私は芹沢さんの私室を訪れていた。
「お茶をお持ちしました」
「……なぜお主が持ってくるのだ」
そう言いながらも、差し出された湯呑を受け取る芹沢さん。
「……土方副長に頼まれまして」
勿論、嘘。
何故、私がここにいるのかというと。
「……局長に伺いたい議があるのですが」
「なんだ、珍しいこともあるものよ。申してみよ」
上機嫌な芹沢さんを前に、私はある事実をぶち込む。
「芹沢局長は、大和屋に対して何かする気はありますか」
「………ほう」
8月13日は史実通りいけば、芹沢鴨が京都の生糸問屋大和屋庄兵衛に金策を謝絶されたことに腹を立て放火したとされている日。
本当は、危険なことや、壬生浪士組が批判を受けるようなことは避けたい。
だけど。先生との話しで得たものがある。
それを止めることが、未来を変えてしまうのなら。
他の人の将来に関わってきてしまうのなら。
私は、それを止めることは、できない。
じゃあ、どうすればいい。
そこで思いついたのが、事件を起こして、それを小規模に抑えるという方法。
これならば、歴史的には記録されるだろうから。
そんな私の思考を読み解くように、芹沢さんの瞳の濁りが消えていく。
「……何故、知っている。我が、大和屋に対して鬱憤を抱え、それを晴らそうとしていることを」
試すような瞳に、たじろぎそうになる心を、掌を握りしめて耐える。
「芹沢局長のことを、見ているから、です」
そう、芹沢さんの行動を、ここにきてから事あるごとに見てきた。
自分でも知らず知らずのうちに、観察するように。
何故か。
それは、芹沢鴨の考えていることが、知りたかったから。
歴史的暴君である芹沢鴨だって、思っていることがある。
周りの人と同じように、感情がある。
では、その感情は、どういったものなのか。
それを、読み解かなくては、私には何もできるはずはないと。
そう、思ったから。
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