ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第4章 歴史と現実

第4話

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「……おめぇ、今日はここにいろ」

「………なんで?」

「そんな状態で仕事なんてできるのかよ」

「……できるよ」



できるできないじゃない。

していないと、心が壊れそうなの。

此処にいてもいいっていう証が、消えてしまいそうで。

酷く、怖いの。



「……無理すんなよ」

「……ありがと」

「………」



布団から出ようとすれば、無言で差し出された掌。

熱をもった人の掌に、こんなにも安心感を覚えるのは、如何してだろう。



「……頑張ってこいよ」



そう言って私を立ち上がらせた後、自らの仕事を片付けようと文机に向かう歳三。



「……はい」



何故だかそれが副長命令のように感じて、敬語で返事をする。

そのまま手拭いをもって井戸へ向かう。

外に出れば、じわりと湿気た生暖かい風が吹き付けてきた。

ぱしゃり、と井戸の水を顔にかけて、手拭いで拭う。

冷たさに、目が覚める。
漸く。

こんなところでくよくよしてらんない。
仕事はたくさんある。

洗濯に、裁縫に、掃除に、ご飯の支度。
目の前に積み重なっていることを、一つ一つ。

ただ、片付けるしかない。

目まぐるしく動き回っていれば、はじめのうちは遠慮がちにしていた隊士たちも、何時ものように雑用を言いつけてきて。



「璃桜さん! これやって!」

「璃桜! 服やぶれた!」



休んでいた分の仕事もあって、てんてこまい。

そんなこんなで、一息つけたのは、そうちゃんに呼ばれた時だった。



「璃桜、ちょっといい?」

「はーい」



勝手場でご飯の支度をしていた時に、呼ばれて入口を見れば、ちょいちょい、と手招きするそうちゃんと平ちゃん。



「はい」



手を拭きながら近づいて行った私に、差し出される甘味処の袋。

かさかさと音を立てて開かれたその袋の中には、まあるいお饅頭が二つ。



「……これ、」



どうしたのか聞こうと思ったら、それより先にそうちゃんが口を開く。



「見回り行ったときに、たまたま、この甘味処を通りかかったんだよね! そしたら、ね! 平助!」

「あー、璃桜ここの饅頭好きだろ! 総司と一緒に買ってきたから、元気出せよ!」

「買った……?」

「あ、平助、それは言わない約束だったじゃん」



もぅ、と膨れるそうちゃん。



「あ、璃桜聞かなかったふりしてくれ」



照れて頬を赤らめる平ちゃん。



「……ありがとう」



二人の優しさが、身に染みる。

私は、あれだけ呼びかけてくれた二人に返事もできなかったのに。




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