73 / 139
第3章 史実
第34話
しおりを挟む「あはははは! いいね、その顔」
心底楽しそうに、笑った先生は。
「……この時代での僕の名前を知っている璃桜ちゃんなら、真相にたどり着けるんじゃない? 僕が何をしたいのか。ヒントは、もう出したから」
にやりと冷たい瞳のまま、唇を歪めて。
「……たどり着いて、見せて?」
そう、言葉を残して私の唇から手を放す。
固まって動けない私に、くるりと背を向けて、歩き出す。
「……っ」
縁側に上がって、去っていくだけだというのに。
「ばいばい」
わざわざ振り返って、別れの言葉を落とす。
それはまるで、
先生が、死の世界へ踏み出したようだった。
「……芹沢さんを、殺す……?」
如何いうことなの。
何故。
先生が、芹沢さんを殺せるというの?
佐伯は、たかが副長助勤。
筆頭局長の芹沢さんになど、手が届くはずもない。
相打ち覚悟でもない限り、殺せるはずがない。
だったら。
自分以外の人を使って、殺そうとしているのだろうか。
先生は、何を、企んでいるの。
「……それ、かもしれない」
芹沢鴨の名が、佐伯又三郎と佐々木愛次郎惨殺の件に関わってくる理由。
先生が、芹沢さんを殺そうとしているから、何かを企んでいるから、歴史の一ページに芹沢鴨の名が刻まれたのかもしれない。
そこまで至った思考に、その内容に、重いため息がこぼれる。
如何して。
同じ、壬生浪士組の、仲間だっていうのに。
如何して、人の命を奪わなくてはならないの。
死ぬ。
殺す。
消す。
斬る。
言葉が、音が、残像を呼び起こす。
血みどろの、錆のにおいを蘇らせる。
如何して、同じ未来を目指しているのに、殺さなくてはならないのだろう。
如何して、手を取り合うことができないのだろう。
そんなことを考えてしまう時点で、やっぱり私は、この時代の人になんてなれない。
その事実が重く心にのしかかる。
悔しい。
悲しい。
寂しい。
酷く、自分がちっぽけに感じる。
だけど。
私だって、やれることをやるしかない。
みんなが、それに気づかせてくれた。
だったら。
未来からきたという事実を、最大限まで利用しよう。
使って、遣って、つかいきる。
それで少しでも未来を変えることができるなら。
私はそれを、厭わない。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

新撰組のものがたり
琉莉派
歴史・時代
近藤・土方ら試衛館一門は、もともと尊王攘夷の志を胸に京へ上った。
ところが京の政治状況に巻き込まれ、翻弄され、いつしか尊王攘夷派から敵対視される立場に追いやられる。
近藤は弱気に陥り、何度も「新撰組をやめたい」とお上に申し出るが、聞き入れてもらえない――。
町田市小野路町の小島邸に残る近藤勇が出した手紙の数々には、一般に鬼の局長として知られる近藤の姿とは真逆の、弱々しい一面が克明にあらわれている。
近藤はずっと、新撰組を解散して多摩に帰りたいと思っていたのだ。
最新の歴史研究で明らかになった新撰組の実相を、真正面から描きます。
主人公は土方歳三。
彼の恋と戦いの日々がメインとなります。


『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる