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第3章 史実
第32話
しおりを挟む脳裏に浮かんだ言葉が、口からこぼれる。
「……本当に、伝わっている歴史が、本当だとは、限らないじゃない」
変えられるって、思っている。
ううん、そうじゃなかったら、私、どうして此処にいるの?
だって、私は、此処で、みんなのことを護りたい。
護るために、此処にいるんだ。
そうちゃんも言ってくれた。
“意志の力”があれば、共に生きていけるはずだって。
此処での私の役割は、たくさんあって、それを日々こなして、みんなと笑って泣いて、悩んで―――――。
そうやって生きていれば、自分で未来が作れるって、そう、思っている。思っていたい。
だけど。
先生は、残酷な可能性を、私に突きつける。
「……もし、変わってしまったら、未来の自分がいなくなるかもしれない」
「……でも」
まだ抗おうとする私に、諭すように優しく。
「自分が存在しない未来が来たら、それこそ、この時間軸は崩壊してしまうって、そうは思わない?」
「……え?」
先生の話は、難しくて。
理解することが、できない。
じっと耳を傾けていたら、断片的にだけれど、少しずつ話の内容が入ってきた。
歴史を変えたせいで、未来の先生が存在しないということは、先生がタイムスリップすることもないということ。
つまり、佐伯又三郎が壬生浪士組に存在しないということ。
そうしたら、愛次郎君もあぐりちゃんも生きていたかもしれないということ。
「……何が、いけないんですか?」
ここまでの想定は、私がそれこそ望んでいること。
愛次郎君とあぐりちゃんを救えるという話だ。
「……璃桜ちゃん、よく考えて。もし、だよ?」
愛次郎君が生きていたとして。
その先の未来では、きっと活躍することがあるだろう。
「ねぇ、わかってますか?」
びくりと、身体が震える。
平成で何度も聞いた、その台詞。
黒板の前で、チョークをかたんとおいて、振り返った唇から聞こえてきていたその言葉。
―――今は、酷く、冷たい。
「壬生浪士組の隊士が活躍するということは、相手側の命が、失われるということ」
「――――――――!」
その言葉の衝撃に、眼を見開く。
言葉が出ない。
甘ったれた私の、何も考えられていない考えが、がらがらと崩れていく。
先生の言葉が、あまりにも、正論だったから。
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