ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
71 / 139
第3章 史実

第32話

しおりを挟む



脳裏に浮かんだ言葉が、口からこぼれる。



「……本当に、伝わっている歴史が、本当だとは、限らないじゃない」



変えられるって、思っている。
ううん、そうじゃなかったら、私、どうして此処にいるの?

だって、私は、此処で、みんなのことを護りたい。
護るために、此処にいるんだ。

そうちゃんも言ってくれた。

“意志の力”があれば、共に生きていけるはずだって。

此処での私の役割は、たくさんあって、それを日々こなして、みんなと笑って泣いて、悩んで―――――。

そうやって生きていれば、自分で未来が作れるって、そう、思っている。思っていたい。


だけど。

先生は、残酷な可能性を、私に突きつける。



「……もし、変わってしまったら、未来の自分がいなくなるかもしれない」

「……でも」



まだ抗おうとする私に、諭すように優しく。



「自分が存在しない未来が来たら、それこそ、この時間軸は崩壊してしまうって、そうは思わない?」

「……え?」



先生の話は、難しくて。
理解することが、できない。

じっと耳を傾けていたら、断片的にだけれど、少しずつ話の内容が入ってきた。

歴史を変えたせいで、未来の先生が存在しないということは、先生がタイムスリップすることもないということ。

つまり、佐伯又三郎が壬生浪士組に存在しないということ。

そうしたら、愛次郎君もあぐりちゃんも生きていたかもしれないということ。



「……何が、いけないんですか?」



ここまでの想定は、私がそれこそ望んでいること。
愛次郎君とあぐりちゃんを救えるという話だ。



「……璃桜ちゃん、よく考えて。もし、だよ?」



愛次郎君が生きていたとして。

その先の未来では、きっと活躍することがあるだろう。



「ねぇ、わかってますか?」



びくりと、身体が震える。
平成で何度も聞いた、その台詞。

黒板の前で、チョークをかたんとおいて、振り返った唇から聞こえてきていたその言葉。

―――今は、酷く、冷たい。



「壬生浪士組の隊士が活躍するということは、相手側の命が、失われるということ」

「――――――――!」



その言葉の衝撃に、眼を見開く。

言葉が出ない。
甘ったれた私の、何も考えられていない考えが、がらがらと崩れていく。

先生の言葉が、あまりにも、正論だったから。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

新撰組のものがたり

琉莉派
歴史・時代
近藤・土方ら試衛館一門は、もともと尊王攘夷の志を胸に京へ上った。 ところが京の政治状況に巻き込まれ、翻弄され、いつしか尊王攘夷派から敵対視される立場に追いやられる。 近藤は弱気に陥り、何度も「新撰組をやめたい」とお上に申し出るが、聞き入れてもらえない――。 町田市小野路町の小島邸に残る近藤勇が出した手紙の数々には、一般に鬼の局長として知られる近藤の姿とは真逆の、弱々しい一面が克明にあらわれている。 近藤はずっと、新撰組を解散して多摩に帰りたいと思っていたのだ。 最新の歴史研究で明らかになった新撰組の実相を、真正面から描きます。 主人公は土方歳三。 彼の恋と戦いの日々がメインとなります。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

処理中です...