ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第3章 史実

第28話

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真っ白になる。

目の前の景色も、佐伯の顔も、キーンと遠くなる。



「……何か言ってくれない? 僕、つまんないんだけど」

「………どうしてっ、その言葉を……!」

「どうして? なんでそんなありきたりこと聞くの?」



……つまんないの。
そう零した彼は、目を虚ろにして、ふっと息で、笑う。



「僕も、………“平成”から来たからだよ」




“平成”




まさか、ここにきて、この場所で、この人の口から、

………そんな言葉が飛び出すなんて、思いもしなかった。



「ほんとに、簡単に引っかかってくれるよね」

「……そんな、なんで……!」



種明かししてほしい?

そう言った彼は、私の知りたいことをぼろぼろと落としていく。



「君は、“彼女”とか“デート”とか、この時代の人が知らない言葉に、ちゃんとついてきた」

「……っ」



そうだ。
この時代の人なら、知り得ない言葉を、この人は正しく遣う。

そんなの、この人もあの時代から来たって言っているようなもんじゃない。

そんなことにも気づかない。

あまつさえ、自分があの時代の人だってことを気づかせてしまった。



「まー、そんな気に病むことないよ。僕、それが本職だし」

「え」



次から次へと隠されていたことが露になって、脳の処理能力が追い付かない。



「本職って……」



ここにきて、漸く思い出す。

佐伯又三郎については、諸説ある。

長州の間者だという説や、江戸からの間者、もしくはその両方を担う者だったなど。

ということは、どちらにせよ佐伯は。

………どこかの、スパイ。

じっと見ていた先にいた彼は、私の考えなどお見通しのように、さらりと答えを言う。



「江戸方のスパイだよ。未来から来た璃桜ちゃんなら知ってるでしょ。ああ、歴史に詳しくないと知らないか。僕の名前なんて、なかなか出てこないもんね」



“璃桜ちゃん”

待って。

今、何が頭に引っかかった。

記憶に、違和感を感じた。



おかしい、佐伯に璃桜ちゃんだなんて呼ばれたことがないのに。

何故か、耳がこの声を知っていると錯覚する。




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