ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第3章 史実

第26話

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「お待たせしました」



いつも通りに、ご飯を食べて。
いつも通りに、3人のご飯の奪い合いを見て。
いつも通りに、そうちゃんの好き嫌いを叱って。

……いつもと違った歳三の態度に、少しだけ、傷ついて。



傷つくなんてお門違いなのは、私でもわかっている。

むしろ、私に傷つく権利も義務もない。

だけど。

どうしても、歳三に迷惑をかけてしまっている己の状態が嫌になる。

心配、してるんだろうな、とか。

首をもたげる余計な感情。今は、いらない感情。

でも、譲れないから。絶対。



「やーっと来た。遅いからもう戻ろうとしちゃったよ」

「すみません」



ふわーっとあくびをしながら、中庭に立っているその人は。

ゆるゆるとした姿からは想像もさせないほど、鋭い眼光で私を射た。



「でさー、女の子の君にお願いがあるんだよね」

「!?」

「ああ、女の子なのを知ってるのは、水戸派で僕だけだから、大丈夫だよ~」



でも、お願い聞いてくれなかったらばらしちゃうかも? なんてふざけた口調で笑っている。

その瞳は、笑っていない。



「……何ですか」



ばれているなら、もう仕方がない、そう思って腹をくくった。
警戒しながらも聞き返せば、返ってきたのは、とんでもない“お願い”。



「僕の彼女役、やってくれない?」

「……は?」

「いやだから、彼女よ。彼女。わかるでしょ?」

「………えっと……ちょっと……」



なんだこいつ。

馬鹿なのだろうか。ほぼ初対面の相手にそんなことを頼んで、承諾してくれるとでも思ってるのだろうか。

そうだとしたら、とんでもない人だ。
黙っている私に、ふと眉をひそめた彼は、質問を重ねる。



「何。彼女って言葉の意味が分かんないの?」

「え、いや……それはわかりますけど……」



そう答えた瞬間、彼の唇が楽し気にゆがんだ。
にこにこと笑ったまま、言葉を紡ぐ。



「……やっぱさー、デートする相手がほしいのよ」

「はあ……どこに出かけるんですか、甘味処とかですか」



とりあえず話を合わせる。

くだらなすぎて、悩んでた数時間前の私に、無駄なことはするなと言いたくて仕方ない。



「まー、ね。なんでそう思ったかってゆーと、」




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