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第3章 史実
第24話
しおりを挟むそれからどのくらいの時間が経ったのだろう。
「飯まだか~璃桜! ……っておめぇ!」
「え、……きゃ!!!!」
様子を見に来た新八さんの声で我に帰れば、盛大に吹き零れる鍋。
「…すいませ…っ、あつ……っ!」
「おい! 大丈夫かよ!!!!」
どうにかしようとして逆に近づきすぎた私は、突沸したお湯がかかり、思わず手をひっこめる。
見れば赤くなった手の甲が、じんじんと痛みだす。
「馬鹿…! すぐに冷やせよ!!!」
ふわ、と重力がなくなったと思ったら、視界が上がる。
「しんぱちさ、っ」
「黙ってろ」
中庭の井戸に連れて行かれ、横に降ろされる。
「ちょっと待ってろ」
「……っ、はい…」
痛みが増してくる。
これはしばらく痛むなぁ……。
新八さんが汲んでくれた冷たい水に手を付ける。
「……落ち着いたか?」
「あ、はい……」
じっと見下ろしていた新八さんは、ふぅ、とため息をついて。
「……で?」
「え、はい?」
「何で璃桜がそんなことやらかしてんだ?」
「え……えと」
佐伯のことを、新撰組の未来を考えていた、なんて口が裂けても言えない。
ううん、言いたくない。
だって言ってしまったら、こんなに優しい新八さんでも、きっと私が怖くなる。
畏怖の瞳の光を、立て続けに見るなんて出来ない。
そうしたら、私自身も、この時代で生きているなんて、そんな“偽り”を信じられなくなってしまいそうで。
言い出せなくて口ごもった私に、諭すように歯を見せて。
「誤魔化しても無駄だよ。おめぇはいつも手際だけはいいだろ」
「………」
「そんな璃桜があんなに焦って怪我するなんざ、おめぇらしくねえんだよ」
ほら、どした?
そう言って顔を覗きこんでくれる新八さんの優しさに、肩の力が抜けて。
如何してか、涙腺が緩んだ。
零れそうな涙が、睫毛にひっかかる。
かろうじて頬を滑らなかった雫は、私の色素の薄い目に幕を張っていて。
それに、新八さんがきづかないわけもなく。
ぽん、とあたたかくて大きな手のひらが頭に乗っかった。
「ほら」
「……っ」
「まーた、余計なことでも考えてるだろ?」
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