ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第3章 史実

第23話

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悶々と考え込んでいれば、がらりと遠慮なく襖が開く。

驚いて、そちらに目を向ければ。



「璃桜! 起きてる~?」



そう言って部屋を覗いたのはそうちゃん。
聞こえてくる声から察するに、後ろには、平ちゃんもいるようだ。



「もう、いつも思うけど、着替えでもしていたらどうするの」

「えー、だって兄妹だしぃ、問題ないでしょ」

「問題大有りだろ!! 総司の馬鹿野郎!」



何も悪いことしてないもん、というように目をくりくりさせるそうちゃんと、相変わらずな平ちゃんに、いつも通りの自分が戻ってくるのを感じる。

この調子で行こう。
そう、私はまだ何も知らないことにしておいた方が、いい。

歳三の小姓をしていてわかったことがある。

小姓ごときが、先にいろいろな情報を知っているのは、周りの幹部たちからみると、面白くないらしい。

試衛館派の皆は私のことを知っているから、特に何も言ってこないけれど、水戸派は自分の知らない情報を私なんかが知っていることに不満を持つ。

それが分ってからは、大事な事件を知っても、黙って発表されるまで、歳三以外の誰にも言わないようになった。

発表された時に、おおげさに驚いて。
皆と一緒に日常を送っている、そう感じていたくて。



「璃桜! いくよ!」



平ちゃんが差し出してくれた手に、己の手のひらをかさねる。

あたたかい、その掌。
冷たくなってしまうなんて、信じられない。

今、彼らは生きている。
文字なんかじゃなく、空気を吸って、幕末を。

大丈夫。
私は、皆を守る。

その願いが通じたのか、その日の夕方。



「……小姓さーん」

「はい! ………って、」

「何? 僕の顔変?」



いつも見かける通り、飄々としたオーラを放った佐伯又三郎、その人が勝手場の入り口に懐手をして立っていた。

心臓が、ばくばくと鳴る。

如何して。
その疑問だけが頭を埋め尽くす。

如何して、佐伯が私に……?



「小姓さん? ちょっといいかな」



話しかけられた経験は皆無。



「……何でしょう…?」




恐る恐る訊き返せば、にまりと口角をあげる。



「ちょっと小姓さんに尋ねたいことがあるんだよ」

「え……」

「だから、今夜中庭で待ってる」



そう言うだけ言って、私のことなど始めから見ていなかったかのように、ふい、と小さくなる背中。

勝手場には呆然とする私が残されて。




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