ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第3章 史実

第17話

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「副長!!!!」



外から小さいけれど険しい声が聞こえて。

その声に、歳三はぱちりと目を開け、ばっと上体を起こしてまるで今まで起きていたかのよう胡坐をかく。

私の腕は、行き場をなくして空を切る。



「入れ」

「失礼つかまつる」



襖を開いて入ってきたのは、大きな黒装束の人。




「………?」




じっと見ながら、私の頭の上に疑問符が浮いていたのだろう、にこりと笑って自己紹介してくれた。



「島田と申します。監察方です」

「璃桜は会うの初めてだったな」



よろしくおねがいしますと優しく笑う島田さん。




「初めまして、璃桜です」



島田魁。

大柄なのに動きはとても俊敏で、仕事がとても丁寧だと言われている。

いかつい見た目に合わず相当の甘味好きだと史実では言われていた。

史実通り、優しそうな人。




「で? こんな朝早くどうした」

「それが………」



耳元で伝えられた言葉に、歳三が目を見開く。



「……何………!?」

「ただいま監察方のほうで現場の検証をしている次第です。副長には先に知らせた方がようかと存じまして、朝早くから失礼させていただきました」

「わかった。ご苦労、現場は任せた」

「はっ」



歳三の命令に、島田さんは小さく一礼すると、すっと襖を開けて出ていった。



「……如何したの」

「…………璃桜」

「何……?」




歳三は眠気なんて吹き飛んだかのように、眉根を寄せて、哀しい表情で私を見る。
その顔に、まさか、とある史実が頭をよぎる。



「……ねぇ、今日、何日?」

「…………やっぱ、知ってんのか」

「ねえ、何日よ?」

「…………8月2日だ」



ああ。

目の前が、回る。




「愛次郎、くん……………」




私が呟いたその名に、歳三が唇を噛む。

そして、非情にも言葉を落とす。




「佐々木が千本通朱雀で、遺体で見つかった」




8月2日。
佐々木愛次郎惨殺。

その事実を耳にして、周りの景色から、色が消えていく。




「まもれな、かった…………………っ」




歴史は、歴史通り。

着実に、進む。

私のちっぽけなあがきなんて、ものともせずに、進んでいく。

ぼたぼたと頬を伝う雫。




「守れたと、思ったのに………っ」

「……璃桜」



そして、さらに残酷な事実が知らされる。




「……女が、ともに死んでいた、らしい」

「っ」




息が詰まる。




「…………甘味処の、娘だ」

「………嘘」




そんなわけ、ない。

だって、お鈴ちゃんは、甘味処の娘で、八百屋の娘じゃない。
名前も、違うじゃない。




「お鈴ちゃんは、あぐりなんかじゃないもの…………!!!」




そう、絶対に違う。

有りえない。
歴史通り進むなら、お鈴ちゃんは、死なないはずだもの。





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